(大阪府 C)
【同性医師の診療が基本,いなければ同性看護師立ち会いのもと,付き添い家族を通しつつ診察】
世界的にイスラム教徒人口は増えており,わが国では,まだまだ少ないとはいえ例外ではありません。イスラム教徒の患者も目立って増えています。質の高い医療をイスラム教徒の患者に提供するには,文化的,霊的な価値観の違いを理解することから始めなければなりません。
どの宗教もそうであるように,イスラム教も国,文化,個人によって信仰の守り方にも違いはあります。西アフリカの国々と中東のイランや,アジアのインドネシアでは少なからぬ違いがあります。救命はすべてのガイドラインや規程や規則より優先しますが,日常診療では,特に敬虔なイスラム教徒の患者の場合,日本人の大多数や他の宗教の患者とは異なることが多く,戸惑うことが少なくありません。
ご指摘のように,イスラム教徒の女性は夫と家族以外には衣服で覆われている部分の肌の露出は基本的にしません。男女ともに慎み深さを重んじており,原則として,男性は臍から膝までを覆い,女性は顔,手と足のみを露出します。同性の医師の診療が基本ですが,いない場合は同性の看護師の立ち会いのもとで診療を行います。
何ごとも,診療や検査の必要性と同性の医師が不在であることを説明することが重要です。日常診療の場では,敬虔なイスラム教徒の女性が来院するときは,必ずその患者の夫または父親が付き添いで来ます。
問診を始めるときは,普段は重要なアイコンタクトは避け,患者本人に,その後見人となる男性と話をしたほうがよいか聞くか,最初から男性と話をします。患者への質問も女性の目は見ずに男性のほうを見ながら通訳を介するように話をします。
診察時は女性の慎ましさに配慮しながらも,必要な視診,聴診,触診,打診は理由を説明しながら行います。覆われた部位の診察は,部分ごとに行い,一度には行いません。露出した体の部位はすぐに覆い隠し,触診した手はすぐに離す配慮が必要です。衣服の上から聴診可能な新しいデバイスは存じていませんが,最低限必要な診察は,説明すれば拒否されることは通常ありません。男性のイスラム教徒の患者を女性医師が診察する場合もほぼ同様ですが,問診は直接することが可能です。
イスラム教徒は医師をとても尊敬しています。私たち医師はそれに,患者の性別,宗教,国籍を問わず誠実に,正直に,思いやり,忍耐と寛容を持ち,プライバシーを尊重して,謙虚な姿勢で応えるべきです。
治療に関しては,内服薬処方が必要な場合は,カプセル製剤は動物(主に豚)由来のゼラチンが配合されている可能性が高いので処方しないほうが無難です。また,ラマダン(断食の時期)は,患者が内服を拒否することがありますので,しっかりと薬剤内容と治療上の重要性を説明することが必要です。
【参考】
▶ Queensland Government:Health Care Providers' Handbook on Muslim Patients. 2nd ed.
[https://www.health.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0034/155887/islamgde2ed.pdf]
▶ Basem Attum, et al:Cultural Competence in the Care of Muslim Patients and Their Families.
[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK 499933/]
【回答者】
明石恒浩 ザ・ブラフ・メディカル&デンタル・クリニック院長