在宅看取りの予定であったが終末期患者さんの急変時に慌てた家族や近所の人が119番し、救急隊による心肺蘇生が開始されたという話をときどき聞く。119番という行為は、「心肺停止であれば蘇生処置を開始してくれ」という意思表示でもある。救急隊には救急救命処置を行う法的義務が課せられている。蘇生処置を行わない場合、後のメディカルコントロールの検証により処罰される可能性すらある。蘇生処置に反応せず死亡を確認した場合、警察に連絡されるケースもある。通報を受けた警察は事情聴取や現場検証を行う。このように在宅看取りのはずが警察沙汰になった、という話をよく聞く。そうなると家族は何か悪いことをしたのでは、という錯覚に陥る。大きなトラウマとなり悩み続ける人もいる。筆者がこれまで1300件以上の在宅看取りを行ってきた中でも数件、苦い経験をした。警察沙汰になればせっかくの在宅医療も後味が悪い。
原因はいくつかある。市民が在宅看取り寸前に119番することの意味を理解していない。在宅医が緊急対応をしていない。多くの医師が看取りの法律である医師法20条を正しく理解していない、ないし誤解している。医師法20条と殺人疑い死体の警察届け出を定めた医師法21条を混同している医師は多い。筆者は、「看取り搬送」後の「在宅医の霊安室往診」を是正するため、病院の医師に看取りの法律の説明をしているが多くの時間と労力を要する。救急隊との連携不足も大きな問題だ。