(三重県 T)
【原因が動脈性か静脈性か見きわめた上で,ガイドラインに準拠し治療する】
皮膚は血液で養われているため,難治性下腿潰瘍であってもその原因は大きく動脈性と静脈性の血流不全にわけることができます1)~3)。
動脈性には,たとえば膠原病などのように血管炎に基因するものと,慢性動脈閉塞症〔末梢性動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD),バージャー病など〕やコレステロール塞栓症などのように血行途絶に基因するものがあります。静脈瘤によるうっ滞性皮膚炎に続発する下腿潰瘍が静脈性であり,下腿潰瘍の7~8割を占めるとされます4)。それ以外の原因として,接触皮膚炎,悪性腫瘍,壊疽性膿皮症,自傷などが挙げられます1)~3)。
診断においては,診断・治療アルゴリズム(図1)4)に従い,病変をよく観察し,病歴をよく聴取して接触皮膚炎,悪性腫瘍,壊疽性膿皮症,自傷などを除外します。また,日本皮膚科学会で慢性皮膚創傷に対するガイドライン5)を公表し,昨年,改訂も行っているので,糖尿病や膠原病などの基礎疾患を有する患者には,それぞれの診療ガイドラインに準拠した治療を開始します(慢性動脈閉塞症やコレステロール塞栓症などは合併症として生じることが多いのですが,単独発症もあります)。
ドプラー検査で逆流を認めれば診療ガイドラインに準拠した下肢静脈瘤の治療を開始します。逆流がなくても,リンパうっ滞性皮膚炎を除外するため,圧迫療法を行い,創の状態を観察します。
そして,これら基礎疾患,合併症の病勢のコントロールと同時に,皮膚潰瘍に対しては創状態の評価を行いつつwound bed preparation(創面環境調整)とmoist wound healing(湿潤環境下療法)を心がけた外用薬,ドレッシング材,物理療法による保存的治療や外科的治療を選択します1)~3)。
なお,創面環境調整とは,創傷治癒を促進するために創面の環境を整えることであり,具体的には壊死組織の除去,細菌負荷の軽減,創部の乾燥防止,過剰な滲出液の制御,ポケットや創縁の処理を行います。また,湿潤環境下療法は,創面を湿潤した環境に保持する方法,すなわち,滲出液に含まれる多核白血球,マクロファージ,酵素,細胞増殖因子などを創面に保持する,あるいは,自己融解を促進して壊死組織除去に有効な環境を保持する方法であり,さらには,細胞遊走を妨げない環境を保持する方法でもあります。
しかし,厄介なのはPADを合併した糖尿病性の潰瘍・壊疽の患者であり,足関節/上腕血圧比(ABI)や皮膚灌流圧(SPP)などを検査し,また,経皮的血管拡張術(percutaneous transluminal balloon angioplasty:PTA)やバイパス手術などによる血行再建を計画しますが,基礎疾患や合併症の病勢コントロールがままならないばかりか,血行再建の適応にならないことも少なくありません1)3)。
【文献】
1) 立花隆夫:Visual Dermatol. 2015;14(4):450-3.
2) 立花隆夫:日常診療で必ず遭遇する皮膚疾患トップ20攻略本. 古川福実, 編. 南江堂, 2013, p139-48.
3) 立花隆夫:Geriat Med. 2012;50(7):815-9.
4) 立花隆夫:皮膚潰瘍の見方・治し方. 第2回二上山難治性皮膚疾患研究会, 2013.
5) 日本皮膚科学会創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン策定委員会, 編:創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン. 金原出版, 2018.
【回答者】
立花隆夫 大阪赤十字病院皮膚科部長