在宅領域の2学会が合併して創立された「日本在宅医療連合学会」の第1回大会が7月14~15日、「ひとつになる」をテーマに都内で開かれた。新学会創立を記念して組まれたシンポジウムでは、在宅医療の専門家や行政担当者らが、医療者と国民への在宅医療の普及策を巡って意見を交わし、「学問体系としての在宅医療」の確立も課題として共有された。
同連合学会は、がん緩和ケアを実践する病院医師・多職種の参画が多かった「日本在宅医療学会」と、各地域でがん・非がんを問わず在宅医療に取り組んできた医師が中心の「日本在宅医学会」の2学会が、今年5月に合併して発足した。第1回大会大会長は森清氏(大和会東大和ホームケアクリニック院長)が務め、事前登録だけで3000人近い参加があった。
1日目に開催された創立記念企画(講演とシンポジウム)の中で、連合学会代表理事の蘆野吉和氏(社会医療法人北斗地域包括ケア推進センター長)は、学会として取り組むべき主要課題として、①病院と地域をつなぐ継続的な医療体制の構築、②在宅医療の質向上、③看取りを伴う地域包括ケアシステムの構築―を掲げた。
記念シンポジウムでは、医療者と国民に向けた在宅医療の普及・啓発が大きな論点となった。座長の1人、城谷典保氏(新横浜在宅クリニック院長)は、登壇者たちに「在宅医療についてどのように説明すればよいか」「普及に向けた課題は何か」と投げ掛けた。
辻哲夫氏(東大高齢社会総合研究機構特任教授)は、地域包括ケアにおける在宅医療について「大きな座標軸は、患者本人の『生活の場』での生活を支えることにある。病気を治す医療とは立ち位置が大きく異なることがポイントだが、この概念にコンセンサスはない」とし、概念の整理が連合学会の重要な仕事になると示唆した。
迫井正深氏(厚生労働省大臣官房審議官)は「全ての医療において生活視点が必要な局面になってきている」とし、医療の姿を「患者の生活を支えるという原点」に戻すべきだと訴えた。その上で、在宅医療普及の最大のカギは、行政の文書ではなく、患者・家族の実体験に基づく口コミであるとして、医療者による「生活を支える医療」の地道な積み重ねに期待をにじませた。
医療行政学者の島崎謙治氏(政策研究大学院大教授)も、在宅医療について「生活者として生きていくことを保障する医療」だとの解釈を述べた。ただし、急激な人口減少と超高齢化によって、生活の場となる「住み慣れたまち」そのものの維持が困難になるケースが増えるであろうことに言及。在宅医療について考える上でも、地方創生やまちづくりの視点が不可欠になると強調した。
大島伸一氏(国立長寿医療研究センター名誉総長)は、在宅医療を実践する各地域のパイオニア的な医師たちに敬意を表しつつも、「“家元”に学ぶ形の在宅医療ではまずいのではないか」と切り込んだ。かねて在宅医療に対して明確な診断学と治療学がないと指摘してきた同氏は、連合学会に対し「在宅医療の基本理念と方法論の骨格を構築すべきだ」と注文。連合学会から医師の養成機関である大学に意識の変革が波及すれば、臨床医学の体系を備えた在宅医療が広まるとの見方を示した。
垣添忠生氏(日本対がん協会会長)は、がん検診の受診勧奨や禁煙推進の施策に行動経済学の知見が導入されつつある現状を紹介。在宅医療のエビデンスを確立する上で、異分野の手法を採り入れることを提案した。
在宅医学会の代表理事を務めていた石垣泰則氏(コーラルクリニック院長)は「病気であっても障害であっても自分の役割を演じられる、普通の生活を支えるのが在宅医療だ」との考えを述べ、連合学会としてはノーマライゼーションの視点を取り入れた子供向けの教育に取り組みたいと意欲を示した。
これらの演者の発言を受け、代表理事の蘆野氏は、自身が青森県で病院長を務めていた時代、自らが訪問診療に赴いて在宅看取りを1件ずつ積み重ね、地域の住民と医療職に在宅医療の文化を根付かせようとしたというエピソードを語り、実体験の重要性を強調。しかし、広く普及させるには「あらゆる戦略が必要」とまとめた。