No.4971 (2019年08月03日発行) P.12
山本由布 (筑波大学医学医療系/セントラル総合クリニック総合診療科)
春田淳志 (筑波大学医学医療系准教授)
登録日: 2019-08-02
最終更新日: 2019-07-31
SUMMARY
医師は職種の特性から,他職種に対して見えないパワーを持っている。そのパワーを意識しながらコミュニケーションをとることで,多職種とより良好な関わりを構築することができる。
KEYWORD
ヒエラルキー
組織における,ピラミッド型の階層構造。医療機関においては,権力の強い医師がトップに位置することが多い。
PROFILE
2008年に福井大学を卒業。後期研修から筑波大学総合診療グループに所属し,現在は大学と地域を行き来しながら訪問診療,外来診療に従事。日本プライマリ・ケア連合学会認定家庭医療専門医・指導医,日本在宅医学会認定専門医。
POLICY・座右の銘
何事にも理由がある
ある日,知り合いの訪問看護師がこのようなことを口にしていた。「どんなに先生が謙虚に接してくれても,気軽に話すのは難しいです。先生から電話をもらうと頭が真っ白になって,こちらの思っていることを話せないことがあります」
昨今,多職種連携教育/協働の重要性が叫ばれているが,上記のような声はいまだ現場で聞くことがある。その背景には,医師という職業の特性も大きく関係している。たとえば,医師は高い知的能力が求められ,資格を取得して「一人前」になるまで長い年月を要するため,他の職種よりも優れているという認識が生まれることがある。また,医師は卒業してすぐに,時には学生時代から多職種より「先生」と呼ばれることも多く,自分たちは他職種に指示をする立場だと卒前から認識している学生も多いようだ1)。実際に,医師法によって医師以外の医業が禁止されているように,現場の医療活動のほとんどが医師の指示や関与を必要としており,それゆえに法的な責任を負う可能性も他の職種に比べて高い。
このように,臨床現場では見えない力関係が働き2),医師が他の職種よりも上位だとするヒエラルキーが暗黙のうちに形成される傾向がある1)。そのため,上記の事例のように他職種が医師に対して意見を持っていても,それを率直に伝えることができず,医師の判断を優先させた方針決定が行われることもある。その結果,患者にとって本当に必要なケアや支援が適切に提供されなかったり,遅れてしまったりする可能性もある。
また,医師は業務量が多く,自分の業務以外に気を配ることが困難であるといった現状も影響し,他職種に医師との協働関係の構築が困難などの認識を持たせていることが明らかになっている3)。