糖尿病に合併した心筋傷害や心室機能障害の中で,冠動脈疾患,高血圧,弁膜症などを認めないものを糖尿病性心筋症と称する。糖尿病性心筋症は心筋組織の線維化・リモデリングから心肥大・左室拡張機能障害が進行し,やがて左室収縮機能障害・症候性心不全へと進展する。
病態機序は多岐にわたり,心臓インスリン代謝シグナル伝達障害,NO産生・利用能の低下,終末糖化産物の蓄積を伴う心筋組織のスティフネス上昇,心筋細胞およびミトコンドリアのカルシウム調節障害,炎症,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系活性化,心臓自律神経障害,小胞体ストレス,微小血管機能障害など,いずれも糖尿病性心筋症の発症・進展に関与するとされている。
糖尿病患者に労作時息切れ・倦怠感・むくみなどの自覚症状があれば,心不全を念頭に心機能評価を行う。心不全症候・心機能障害があるにもかかわらず,臨床的冠動脈疾患,弁膜症,高血圧症,脂質異常症など,他の心血管危険因子を認めない場合は本疾患を考える。
血液検査:血中BNP/NT-proBNP値の上昇
胸部X線写真:心拡大,肺うっ血,胸水貯留
心エコー図検査:左室肥大,左室拡張機能低下,左室駆出率低下
心臓MRI検査:左室肥大,心筋組織の線維化
以上は糖尿病性心筋症に認められる所見であるが,疾患特異的ではない。
糖尿病治療と心不全治療に分かれる。糖尿病治療(血糖コントロール)は,糖尿病合併心不全に対して有効性の報告があるビグアナイド薬,sodium-glucose co-transporter 2(SG LT2)阻害薬を中心に組み立てる。年齢,インスリン依存の有無,心不全の有無,腎障害などの合併症の有無を考慮する。血糖コントロールの目標値・治療薬の選択については専門医に相談することが望ましい。心機能障害・心不全に対しては,ステージに応じてガイドラインに推奨される治療を行う。
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