訪日外国人を対象とした「診療価格設定マニュアル」について厚生労働省研究班の研究責任者を務める田倉智之氏(東大医療経済政策学)が8月19日、概要を説明した。田倉氏は、各医療機関が自院の規模やスタッフの数などを踏まえた係数を入力することで診療価格が算出されるツールの制作に意欲を示した。
田倉氏は同省の「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」で参考人として出席。マニュアルでは、訪日外国人の診療は多言語対応などの体制整備が必要で、日本人診療に比べ費用がかかる一方、多くの医療機関で適切な診療価格を設定するノウハウがないとして、医療機関の経営安定の観点から診療価格の算出方法を提示した。
しかし価格算出のためには、日本人に比べて訪日外国人の診療で必要となった時間やスタッフの人数について調査が求められることなどから、松本吉郎構成員(日本医師会常任理事)が医療現場での実用性の低さを指摘。「病院や診療所のモデルケース別に示していただきたい。風邪等をみた場合など、大まかな目安を出していただけると現場としては助かる」と述べた。
これを受け田倉氏は、現場で活用しやすい診療価格算出ツールを制作することに前向きな姿勢を見せた。
同日の検討会では、厚労省が7月に公表した「外国人患者を受け入れる医療機関リスト」について、選出される医療機関へのインセンティブ強化を求める意見が相次いだ。
厚労省は3月、都道府県に対し外国人患者を受け入れる拠点的な医療機関を選出するよう依頼を発出。5月までに回答が得られたのは27都道府県だった。この理由について厚労省は同日の検討会で、「都市部では、リストに選出されることへのメリットが見えにくいとして難色を示している地域がある」と説明した。
松本氏は、「働き方改革で負荷が高まっている中、(外国人患者の集中は一層の負担になるとの懸念から)リストへの掲載をためらう医療機関がある」として、「リストに載ることがメリットとなるよう施策を充実させていく必要がある」と指摘。複数の構成員から同様の意見が上がった。厚労省は、「自由診療での『損をしない価格設定』を普及し、外国人の受け入れは損ではないという認識を広めていきたい」との考えを表明。補助金などを充実させていく方向性も示した。