パリを訪れた循環器専門医は、慢性心不全治療のパラダイムシフトを目の当たりにすることになった。ランダム化試験 "DAPA-HF" において、血糖低下薬として用いられているSGLT2阻害薬が、2型糖尿病合併の有無を問わず、心血管系(CV)死亡、総死亡を含む慢性心不全例の転帰を改善したのである。古くは1987年のCONSENSUS試験以来、神経体液性因子に介入せずに慢性心不全例の生命予後が改善されたのは、本試験が初めてである。8月31日からパリで開催されている欧州心臓病学会学術集会において9月1日、 John McMurray氏(グラスゴー大学、英国)により報告された。
DAPA-HFの対象は、「左室駆出率(EF)≦40%」かつ「NT-proBNP≧600pg/mL」(直近1年入院既往例では「≧400pg/mL」、心房細動/粗動例では「≧900pg/mL」)の症候性心不全4,744例である。日本からも343例が登録された。なお、「eGFR<30mL/分/1.73m2」例、1型糖尿病(DM)例は除外されている。
平均年齢は65歳強、NYHA分類はII度が7割弱、EF平均値は31%だった。また45%が2型DMを合併していた。心不全治療薬は、約95%がレニン・アンジオテンシン系阻害薬、β遮断薬をそれぞれ服用しており、アルドステロン拮抗薬も7割以上が服用していた。また利尿薬は95%近くが使用していた。
これら4,744例は、SGLT2阻害薬(ダパグリフロジン10mg/日)群(2,371例)とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法にて、平均18.2ヶ月間、追跡された。
その結果、1次評価項目である「CV死亡・心不全による入院/救急外来受診」は、SGLT2阻害薬群で相対的に26%の有意なリスク減少を認めた(ハザード比 [HR] :0.74、95%信頼区間 [CI]:0.65-0.85)。治療必要数(NNT)は21例だという。またSGLT2阻害薬群における有意な減少は、2型DM例(同:0.75、0.63-0.90)だけでなく、非2型DM例(同:0.73、0.60-0.88)でも認められた。同様に、2次評価項目の「心血管系死亡・心不全入院」も、SGLT2阻害薬群におけるHRは0.75(同:0.65-0.85)と有意な減少を認めた。総死亡も同様である(同:0.83、0.71-0.97)。なお本試験では、試験開始後の評価項目変更は行われていない。
同じく2次評価項目である「QOL」も、SGLT2阻害薬群で有意に改善された。すなわち、KCCQ「5ポイント以上改善」はSGLT2阻害薬群で有意に多く(オッズ比:1.15、95%CI:1.08-1.23)、逆に「5ポイント以上増悪」は有意に少なかった(同:0.84、0.78-0.90)。
有害事象による服薬中止率は、両群間に差を認めなかった。
これらの結果を受け、指定討論者であるMarco Metra氏(ブレシア大学、イタリア)は以下を指摘した。
まず、これまでの慢性心不全試験と異なり本試験では、SGLT2阻害薬群における心不全関連イベントの減少が試験開始直後から見られた。また亜集団解析では、EFやNT-proBNP、eGFRの高低にかかわらずSGLT2阻害薬の有用性が一貫していたが、NYHA分類II度(1次評価項目HR:0.63、95%CI:0.52-0.75)に比べ、III/IV度(同:0.90、0.74-1.09)では有用性が減弱傾向にあった。これらの所見にも関連するが、SGLT2阻害薬による心不全増悪抑制の機序は不明である。
今後検討されるべきは「HFpEFへの有効性」ならびに、「DAPA-HFで観察された有用性がSGLT2阻害薬に共通の作用であるか」の見極めであるという。
本試験はAstraZeneca社の資金提供を受けて行われ、同社は統計解析にも参加した。