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魚類によるシガテラ中毒の発症機序と原因となる魚種は?

No.4980 (2019年10月05日発行) P.58

大城直雅 (国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部第二室室長)

登田美桜 (国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室室長)

登録日: 2019-10-07

最終更新日: 2019-10-01

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シガテラ中毒についてご教示下さい。
(1)発生しやすい主な魚種,季節,地域
(2)毒はどのように作用するのでしょうか?
(3)予防可能とすればその方法(高知県 Y)


【回答】

【食物連鎖の上位者となる肉食魚の大型個体は危険性が高いと言われている】

シガテラ魚類食中毒(ciguatera fish poisoning:CFP)は,主に熱帯・亜熱帯のサンゴ礁域に生息する魚類の摂食によって発生する自然毒食中毒です1)2)。原因物質のシガトキシン(CTX)類は,大型海藻などに付着し生息する渦鞭毛藻と呼ばれる微細な藻によって産生され,食物連鎖によって藻食動物から肉食魚へと伝搬・蓄積されます。そのため魚の毒性は餌に含まれるCTX類の量によって異なります。つまり魚が摂餌した海域あるいは,餌生物が生息していた海域における渦鞭毛藻の分布密度によって異なりますし,魚体内での代謝速度も影響してきます。

(1)発生しやすい主な魚種,季節,地域

一般的に食物連鎖の上位者となる肉食魚の大型個体は危険性が高いと言われています。代表的なものとしてはドクウツボ,ドクカマス(オニカマス),バラハタ,バラフエダイ,イッテンフエダイ,アカマダラなどがありますが,すべての個体がCFPをもたらすわけではありません。また,本州から九州の太平洋沿岸で獲られたイシガキダイの大型個体(いわゆるクチジロの中でも大型個体)による食中毒も散発しています3)。これらの魚種はわが国での発生事例が多いもので,海域によって他では有毒魚とされるものが無毒であったり,その逆もあったりします。さらに,仏領ポリネシアやフィジーなど,CFPの高多発地域では南西諸島で普通に食されている魚種による事例も報告されています4)。国内での主な発生地域は,沖縄県と鹿児島県奄美地方を含む南西諸島です。本土での発生の多くは南西諸島や南鳥島周辺海域などで釣った大型魚による事例ですが,上述の通り本州沿岸で獲られた大型のイシガキダイによる事例があります。詳細な調査と解析が必要ですが,現在のところ季節性は認められていません。

(2)毒の作用機序

CTX類は電位依存性Naチャネルに結合し,チャネルを閉じなくする作用があるため,神経伝達系に異常をきたします。CFPの症状は神経系,消化器系,循環器系と多岐にわたり,中でも神経系症状の温度感覚異常はシガテラの特徴的症状でドライアイスセンセーションともよばれます。この呼び名は,ドライアイスに触れると超低温のために“冷たい”ではなく“熱い”または“痛い”と感じますが,CFPでも同じように冷たいものに触れたときに電気的刺激のような痛みを感じることに由来します。体温よりも低いシャワーやクーラーからの冷風が当たる部位に痛みを感じ,冷水を口に含むと炭酸水のような刺激を感じたりします。死亡例はきわめて稀ですが,関節痛や瘙痒を含めた神経症状に加えて,倦怠感や消化器の不調などの症状が,数カ月にわたって継続することもあるため,患者のQOLは著しく低下します。また,発生頻度は高くないとされていますが,徐脈や低血圧によって失神をきたして救急搬送されるなど,循環器系の症状は医療機関を受診する患者の主訴とされています5)

(3)予防方法

欧州では南アジアや東南アジアから輸入したバラフエダイによる食中毒の報告がありますが6),わが国ではCFPの原因となりうる魚種は輸入時に有毒魚とみなし排除されています。また,東京都などの地方自治体では市場監視の中で,CFPの疑いがある魚種は販売自粛の指導を行っており,流通を防いでいます。CTX類を含む魚の色や形,味などに異常は認められず,摂食前にCTX類の有無を判定することはできません。また,CTX類を含む魚を加熱調理してもCTX類は分解しません。そのため中毒にならないよう予防するには,CFPの危険性が高い魚のことを知り,それらの摂食は避けること,特にイシガキダイなどの場合は通常よりも大きなサイズは食べないことです。

【文献】

1) 大城直雅:医事新報. 2013;4673:64-5.

2) Friedman MA, et al:Mar Drugs. 2017;15(3):E72.

3) 登田美桜, 他:食衛誌.2012;53(2):105-20.

4) Chan TY:Am J Trop Med Hyg. 2016;94(4):704-9.

5) 大城直雅, 他:日臨(別冊). 2014;30:684-7.

6) Friedemann, M:Journal of Consumer Protection and Food Safety. 2019;14(1):71-80.

【回答者】

大城直雅 国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部第二室室長

登田美桜 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室室長

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