単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)による感染症で,皮膚や粘膜に小水疱やびらんを形成する。HSVは皮膚や粘膜に初感染した後,知覚神経節の神経細胞に潜伏し,活動再開(再活性化)の機会をうかがっている。発熱,日光曝露,過労,月経などが誘因となり,潜伏ウイルスが増殖を再開し,知覚神経を下行して皮膚・粘膜に再発病変を生じる。HSVにはHSV-1とHSV-2の2種類の型があり,HSV-1は主に口唇や顔面などの上半身に,HSV-2は主に性器などの下半身に再発を繰り返す。臨床病型としては症状の出る場所により,口唇ヘルペス,性器ヘルペスのほか,ヘルペス性歯肉口内炎,ヘルペス性瘭疽(指のヘルペス),角膜ヘルペス,カポジ水痘様発疹症(アトピー性皮膚炎などの基礎疾患を発生母地としてHSV病巣が広範囲に拡大する疾患)などがある。
多くの場合,視診ならびに再発歴や接触歴などの問診から診断可能である。時に帯状疱疹,伝染性膿痂疹,接触皮膚炎,固定薬疹,手足口病などとの鑑別を要することがある。その場合は,Tzanck試験によるウイルス性巨細胞の証明,蛍光抗体法やイムノクロマト法によるHSV抗原の検出を行う。
①Tzanck試験:水疱内の細胞の塗抹標本をギムザ染色し,ウイルス性巨細胞を検出する。迅速,簡便な検査であり,日常診療で頻用されている。ただし,帯状疱疹との鑑別はできない。
②蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出:水疱内細胞の塗抹標本を用いて,HSV特異的抗体により免疫染色を行う。帯状疱疹との鑑別や,HSV-1とHSV-2の区別に有用である。
③イムノクロマト法:イムノクロマト法によりHSV抗原を迅速に検出するキットを使用する。角膜ヘルペスおよび性器ヘルペスでのみ保険適用が認められている。
単純疱疹に使用できる抗ヘルペスウイルス薬には,外用薬,内服薬,点滴静注薬の3種類の剤形があり,重症度や重症化リスクに応じて使いわける。ただし,外用療法のみでは神経節でのウイルス増殖は抑制できないため効果は限定的であり,適応は再発性の軽症例やピークを過ぎた症例に限られる。治療の基本は抗ヘルペスウイルス薬の全身投与である。特に初発例では重症化することも多く,早期から十分量の抗ヘルペスウイルス薬(バラシクロビル,ファムシクロビル)を全身投与する。早期にHSVの増殖を阻害することで,神経節に潜伏感染するウイルス量を抑制し,その後の再発頻度の減少効果も期待できる。
性器ヘルペス初感染やカポジ水痘様発疹症で全身症状の強い症例,化学療法中などの免疫抑制患者に生じた重症例に対しては,原則として入院の上,抗ヘルペスウイルス薬の点滴静注を行う。性器ヘルペスで,年に6回以上の再発を繰り返している場合には,バラシクロビル500mgを継続的に内服する再発抑制療法を考慮する。また,再発頻度が年3回以上の再発性単純疱疹に対しては,患者の判断でファムシクロビル1回1000mgを2回服用する短期間服用療法も選択肢となる。
抗ヘルペスウイルス薬は腎排泄性の薬剤であるため,腎機能に応じて減量する必要がある。添付文書のクレアチニンクリアランスに基づいた減量の目安に従って用法・用量を調節する。
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