百日咳菌(Bordetella pertussis)による急性気道感染症である。臨床経過は,潜伏期(5~10日),カタル期(約2週間),痙咳期(約2~3週間),回復期(2~3週間)である。カタル期から痙咳期にかけて,顔を真っ赤にする激しい咳込み(スタッカート),音を立てて息をする(ウーピング)がみられる。新生児では無呼吸発作が先行することがある。生後6カ月未満では,肺炎,痙攣,脳症,等を合併し,致死的になりうる。小児特有の疾患ではなく,成人の長引く咳嗽の原因になるので,発作性咳嗽,ウーピング,断眠,周囲に咳嗽が長引く人がいる場合は本疾患を疑う。2018年1月1日より5類感染症(全数把握疾患)となり,診断後7日以内に届出が必要である。
東邦大学医療センター大森病院小児科では,2018年度に7例が百日咳と診断され,3カ月未満児の4例が入院,そのうち3例が人工呼吸管理を要した。いずれの症例も家族内で流行がみられた。
成人や年長児では,長引く咳嗽を認めた場合,本疾患を疑う。新生児・乳児では感冒様症状に伴う無呼吸発作や強い咳嗽で疑う。カタル期の血液検査では,特に乳幼児でリンパ球有意の白血球増多(>1万5000/μL)がみられるが,急性期炎症反応は高値にならない。
診断方法は病期により異なる。カタル期は百日咳菌の喀痰培養・咽頭ぬぐい液の遺伝子検査(PCR法,LAMP法),痙咳期は咽頭ぬぐい液の遺伝子検査(PCR法,LAMP法)・血清抗体価(抗PT-IgG抗体>100EU/mL),回復期は血清抗体価(抗PT-IgG抗体>100EU/mL)を用いる。ただし,百日咳ワクチン(4種混合,3種混合)接種後は抗PT-IgG抗体が上昇するため,ペア血清で判断する1)。遺伝子検査は2016年11月から保険適用となった。
特徴的な咳嗽は百日咳毒素による症状であり,抗菌薬投与のみでは改善しない。しかしながら,本疾患はしばしば流行し,成人症例からワクチン未接種の乳児に感染すると重症化することがあるので,診断したら感染拡大防止のため抗菌薬を投与する。強い咳嗽に対して鎮咳薬を併用するが,小児で中枢性鎮咳薬を併用する際は,無呼吸等の副作用に注意する。家族内や集団施設内での濃厚接触者に対して,流行拡大や重症化を防ぐため,抗菌薬の予防投与を考慮する。乳児では,内服を嫌がる場合には,食前に服用させてもよい。マクロライド系薬は苦みが強いため,服用させる際,酸味(ヨーグルトや柑橘系ジュース等)やカルボシステインとの混合を避け,甘味(チョコレートシロップ等)に混ぜるとよい。
本疾患は,学校保健安全法の第2種に定められており,特有の咳が消失するまで,または5日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで出席停止としている。
百日咳はワクチンで防げる疾患であり,生後3カ月から2歳までに4種混合ワクチンを4回接種する。なお,2013年の調査で,百日咳EIA抗体保有率はワクチン接種後に上昇するが,4~7歳で低下しており,抗体価の減衰が考えられている2)。
海外では10歳代での追加接種,3カ月未満の児を守る目的で妊婦にワクチン接種を行っている。わが国においても検討が望まれる。
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