日本感染症学会インフルエンザ委員会の石田直委員長(倉敷中央病院呼吸器内科)は10月16日、抗インフルエンザ薬の使用に関する提言の改訂案を明らかにした。新たに「バロキサビル マルボキシル」(商品名:ゾフルーザ)に関する記載を追加。「小児では低感受株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する」としている。提言は10月中にも学会のホームページ(http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=4)で公表される予定。
宮城県で開かれた日本感染症学会東日本地方会学術集会・日本化学療法学会東日本支部総会の合同学会で石田氏が発表した。
バロキサビルは2018年3月に発売されたキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬。1回投与で治療が完結するのでコンプライアンスに優れ、ウイルス力価を早期に大きく低下させることから感染防止効果も期待できるとされている。その一方で、バロキサビルの臨床試験では、薬剤投与によりアミノ酸変異を持つ耐性株が検出され、これらの変異が薬剤感受性の低下に関与することが判明。第Ⅲ相試験のデータによると耐性株の検出率は12歳以上で9.7%、12歳未満で23.4%となっており、日本感染症学会は18年10月に耐性株の出現を「高頻度」とする見解を示した。耐性株が検出された患者では、罹病期間の延長やウイルス力価の再上昇も報告されている。
提言ではバロキサビルの推奨の是非について、①成人では臨床データが乏しく、現時点では推奨・非推奨は決められない、②小児では低感受性株の出現頻度が高いことを考慮し、慎重に投与を検討する、③免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない、④重症例では、ノイラミニダーゼ阻害薬との併用も考えられるが臨床エビデンスは少ない―と明記するという。
石田氏は提言について、「委員の意見が割れ、結論に至らず、“最大公約数的に”まとめた」と説明。具体的に非推奨の立場からは、「低感受性ウイルスの出現しやすい小児には使用すべきでない」「低感受性ウイルスの増殖能は感受性ウイルスと同等」「未治療例からも低感受性ウイルスが検出されているという事実がある」などの意見があったと報告した。一方、非推奨としない立場からは、「バロキサビルの有効性は高い」「アミノ酸変異と臨床のアウトカムには相関がみられない」「18/19年シーズンで多くの患者に使用されたにも関わらず、大きな臨床上の問題はみられなかった」「非推奨とするエビデンスが乏しい」との意見が上がったという。
提言ではまた、インフルエンザ治療の基本的な考え方も明示。日本では抗ウイルス薬が症状緩和の目的で軽症の外来患者から投与され、結果的に重症化や入院の必要性の抑制につながってきたとして、「原則として早期診断、早期治療を推奨」するとしている。ハイリスク患者には発症後48時間を超えても投与を検討するとした。
提言では、発症早期に重症化するかどうかの判断は困難だとして、「医師の判断により抗ウイルス薬を投与しない場合でも症状の増悪があればすぐに受診するよう指導することが必要」と指摘している。
提言の位置づけについて石田氏は、「個々の医師の処方を規定するものではない。提言を参考に医師の裁量で処方いただきたい」としている。