【胎児期に起きる多列線毛上皮から重層扁平上皮への置き換わりが不完全になりやすいため】
この理由は胎児食道の発生と密接に関係しています。
胎生初期の食道内腔面は,数層の円柱上皮で覆われています。その後,食道中央部から円柱上皮の最表層に線毛上皮が出現し,口側,肛門側方向に広がっていくため,この時期の食道内腔面は多列線毛上皮で覆われています(図1)。さらに胎生5カ月頃から食道中央部に重層扁平上皮が出現し,多列線毛上皮を置き換える形で上下方向に広がっていきます(図2)。食道上縁,すなわち食道入口部付近はこの重層扁平上皮への置換が最後に生じるため,部分的に置換が不完全に終了し,多列線毛上皮で覆われた粘膜が残存することがあります。こうして残存した粘膜が胃型上皮への分化を経て異所性胃粘膜として生後も存続する―というのが食道異所性胃粘膜の主な成り立ちと考えられています。
異所性胃粘膜は噴門腺型粘膜のほか,胃底腺型粘膜,あるいはH. pylori胃炎等を経て腸上皮化粘膜となる場合もあり,きわめて稀に腺癌が発生します。
食道の異所性胃粘膜が食道入口部に集中している理由は,この部位では胎児期に起きる多列線毛上皮から重層扁平上皮への置き換わりが不完全になりやすいため,とまとめることができます。
【回答者】
牛久哲男 東京大学大学院医学系研究科人体病理学・病理診断学分野教授