従来,病理の仕事は,大学の病理学教室でのみ行われてきた。この分野は臨床とは離れていたので,医療の中ではあまり知られていなかったのが実情である。「なくてはならない領域」とは言われてきたが,臨床家の方々から見れば,やはりいまだ基礎系なのであろうか。
あるとき,医学生の病理学実習後に病理の印象を尋ねた。すると,「特に顕微鏡で標本を観察したことで病理の理解が深まったが,組織の変化が臨床症状とリンクしているように思った」という意見があり,臨床と病理が深い関係にあることは医学生でも感じているようである。
そこで,臨床家の方々に病理の知識を持って頂き,患者にはさらに質の高い医療を提供して頂けるように,タイトルに掲げた内容を記述することにした。
「病理」と言うと,その言葉の響きが少し難しい印象を与えるが,そもそも疾病の本態を追究する医療の一分野である。さらに言うならば,眼に見えない病態を病理標本という媒体を通して診断する分野である。数値化された検査値や白黒陰影のX線写真などとは異なり,病理は人体あるいはその一部をカラーで実際に観察していることになる。内視鏡などでは生体をそのまま観察しているが,病理では,固定された組織や細胞を生きているときとほぼ同じ状態で観察している。病理医は患者の検体を診断するばかりでなく,治療方針や治療効果の判定,さらには疾患の早期発見にも寄与している。そのようなわけで,病理科のある病院では質の高い医療を提供できると言えるのである。
診療報酬点数改定では,病理診断は2008年4月1日から従来の「第3部の検査」(診療支援部門)から離れて,「第13部の病理診断」として独立し,診療部門に再編成された。病理が標榜科となり世に知られるようになり,病理医の地位が確保され,保険適用,病理科の開業,病理外来などが可能となり,病理医が患者に接する機会も出てきた。しかし,全国的にいまだ1人病理医の病院が大半で,病理医の数は依然として不足しており,さらに高齢化しているのが現状である。
病理外来は日本でも少数の病院で行っているが,病理医数が少ないことや,病理外来分の保険請求はできないこともあり,現状では難しいようである。
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