春と秋は学会や研究会のシーズンだ。私たち病理医は、いろいろな診療科から、病理組織標本の写真を撮影してほしいと依頼される。基本的には引き受けるのだが、困ることもある。写真を今週中、明日まで、時に今日の夜までにほしいと言われるのだ。
写真撮影は病理診断と違っていわば「サービス」だ。急な写真撮影の依頼により、診断業務をストップして撮影しなければならないことがある。これは非常に困る。
もう1つ、私たち病理医が悩むのが、病理診断を根拠にして発表をしているのにもかかわらず、発表者の名前に入れてもらえなかったり、時に謝辞にも入れてもらえなかったりする。ひどいケースになると、カルテ上に掲載された写真を無断で使用されることもある。急に写真を依頼するというのは、発表者としてカウントされていないということだ。おそらく多くの病理医が、発表されたことすら知りえないケースも結構あるのだろう。
これの何が問題かというと、不適切なオーサーシップの問題だからだ。具体的に言えば、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors:ICMJE)が示す著者になる基準に反している。
著者になるためには4つの基準が必要だ。
この基準をすべて満たさないものは謝辞にすべきだ。しかし、基準1に該当するにもかかわらず、基準2以下の機会を与えないのは問題だとも述べる。学会発表と論文では違うと言われるかもしれないが、公的な発表という意味では同じであり、この基準を援用すべきだ。
私たちの病理診断が論文の重要なデータになっているので、少なくとも著者、発表者になるかどうかを聞くべきだ。こういうことを書くと、病理医はなんでも名前を入れようとして強欲だ、という批判を受けることもあるのだが、これは研究公正の問題なのだ。病理医が基準1を満たすから著者になったのに、2以下に貢献しないという苦情を聞くこともあるので、病理医にも責任が生じる。そういう場合は自ら謝辞でいい、と申し出たほうがよいが、謝辞にすら名前がないことも多い。
気軽な「写真をすぐ撮って」という依頼から見えてくるのは、医学界の研究公正の意識の低さなのだ。
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[研究公正][写真撮影]