編著: | 神保勝一(神保消化器内科医院院長) |
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判型: | A4判 |
頁数: | 240頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2011年03月20日 |
ISBN: | 978-4-7849-4038-7 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
外来での内視鏡・X線撮影から生検・処置・手術を経て、最終病理診断に至る過程を時系列で辿りながら、臨床医がプレパラートを見ることの重要性、そこから把握できる様々な情報を解説した一冊です。食道がん、胃がん、大腸がんに直腸カルチノイドを加えた全34症例を画像を軸にまとめており、基礎と臨床が不可分であることを実地の立場から示唆しています。
●胃癌取扱い規約/仮想内視鏡検査の解説
「胃癌取扱い規約(第14版)」の解説
仮想内視鏡検査(Virtual endoscopy)の現状と将来
●症例検討
Theme 01 「胸やけあり」の訴えから…
Theme 02 胃潰瘍の再発?それとも…
Theme 03 食欲減退,吐気,つかえ感…
Theme 04 「食道につかえ感」あり…
Theme 05 レントゲン写真では病変?内視鏡検査で進行がんを疑ったが…
Theme 06 心窩部痛を市販薬で抑えたものの…
Theme 07 全く自覚症状なし…
Theme 08 「胸やけあり」で要精検…
Theme 09 吐き気のある高齢者…
Theme 10 多発の胃潰瘍・瘢痕あり…
Theme 11 繰り返す胃潰瘍は生検を
Theme 12 進行がん?広がりと深達度は?
Theme 13 胃がん,手術を勧められたが…
Theme 14 大腸疾患には注意していたが…
Theme 15 進行がん…早期がん…?
Theme 16 自覚症状なしというけれど…
Theme 17 定期的検査が功を奏し…
Theme 18 主治医から大腸内視鏡検査を依頼され…
Theme 19 複数の疾患をかかえた高齢者…
Theme 20 便潜血反応あり,貧血の原因を検索…
Theme 21 便潜血反応あり…。痔かがんか…
Theme 22 自覚症状があったにも関わらず放置…
Theme 23 多発の大腸隆起性病変…
Theme 24 病変は小さいものの…
Theme 25 下血,かかりつけ医から紹介され…
Theme 26 身内に大腸がん。繰り返す下血…
Theme 27 患者は人工肛門を拒否…
Theme 28 トマトのような色をした排便…
Theme 29 集団検診で便潜血(+)(-) 自覚症状はなかったというが…
Theme 30 痔? 肛門痛あり…
Theme 31 臨床症状は軽微であるが…
Theme 32 早期大腸がん手術の4年後…
Theme 33 がんなのか?カルチノイドなのか?
Theme 34 下痢と便秘が交互に…
略語集
コラム「猫に小判」か「鬼に金棒」か
臨床家にとって病理の知識は重要な意味を持っており、また同時に病理医にとっても臨床の知識は必要です。本書は臨床家が積極的に病理を学ぶとともに病理医に臨床の詳細な資料を提供し、共に深い交流と連携を持つことを企画したものです。
臨床の現場にとって病理の知識は、診断、手術、予後のすべての場面において必要不可欠です。近年は診断においても生検にとどまらず、EMR、ESDのように一括して粘膜?離を行うのがめずらしくなくなりました。したがって、病変の範囲、広さ、深さに対する十分な知識を持つことは当然として、さらに細胞の性質も知らなければなりません。今までも術前検討会において、患者のQOLを念頭に置きつつ縮小手術の可否をあらゆる角度から検討しています。その中で病理の知識は欠かすことのできないものとなっています。しかし、そのために検討会の場に病理医が加わることは理想としても非現実的です。
十分な検討の中に臨床家の足らざる知識を病理に求め、病理も臨床家に疑問点を質問することによって診断の理想を追い求めたいと考えます。
本書では、最近経験した貴重な症例を実例に取り上げ、初診から臨床診断に至った経過を経時的に提示しました。従来の消化管診断はまずレントゲン検査があり、その画像から病的変化を読み取り内視鏡検査を実施してきました。そして、レントゲンで指摘された部位の確認と他に病変がないかを診断するのが通常でありました。今日では、内視鏡機器の長足の進歩と臨床家への普及によって、初診時に内視鏡検査を行う傾向になりました。その結果、より小さな病変が診断されたり、病変と考えられる範囲を含めて粘膜切除や粘膜下層?離が実施されるようになりました。すなわち、診断と治療が同時に行われることが可能になったのです。これは同時に病理の正確な診断がないと病変の取り残しや深達度の間違いを起こしかねないことでもあります。何事も便利になると危険を伴う事例があることと似ています。幸いにして、内科、外科、放射線科の臨床家間の連携が密であるためこのような間違いはほとんどみられません。しかし、ここに病理が加われば万全であります。
病診連携と言うと、病院と診療所の関係を指す言葉と理解されています。すなわち、第一線の臨床医が病変を診断し、主として治療を病院に紹介する連携を指しています。ここにさらなる病診連携を加えたいと願っています。病理と診断医の連携をも病診連携とすることです。診断医は生検組織の鏡検も行い、外科標本も詳細に検討し、病理標本を鏡検し展開図をつくることが望まれます。それらの資料をまとめて各科に供覧し、指導を受けてやっと一例が完結することになります。ここで学んだ一例が次の診断に必ず役立つことになります。診断医・臨床医がもっと積極的に病理との連携を求めることを希望して止みません。
2011年2月 神保勝一