脊髄動脈は脳動脈に比べてアテローム性変化が少なく,側副血行路が発達しているため,脊髄梗塞は脳梗塞の1/50~1/100の頻度で,比較的稀な疾患である。脊髄動脈は脊髄前面を縦走し,脊髄腹側2/3の領域を灌流する前脊髄動脈1本と背面の傍正中帯を縦走し,脊髄背側1/3を灌流する後脊髄動脈2本からなる。前脊髄動脈は1本のため閉塞が直ちに脊髄梗塞を惹起しやすいが,後脊髄動脈は複数あるため,容易には脊髄梗塞に陥りにくいという特徴がある。
前脊髄動脈症候群は脊髄腹側2/3にある錐体路と脊髄視床路が障害され,レベル以下の対麻痺,解離性感覚障害(温痛・触覚などの表在感覚は障害されるが,後索を伝導する振動・位置覚などの深部感覚は温存される),膀胱直腸障害を急性にきたす。原因は,前脊髄動脈自体の動脈硬化に伴う血栓性閉塞はほとんどなく,胸腰髄領域を支配するAdamkiewicz動脈起始部のアテローム硬化性狭窄・閉塞や,同部を巻き込んだ解離性大動脈瘤,大動脈炎,手術,心肺停止に伴う脊髄虚血などが多く,頸髄レベルではアテローム硬化性病変による椎骨動脈の閉塞や解離性動脈瘤によることが多い。後脊髄動脈症候群は動脈閉塞が起こりづらいため稀で,脊髄動静脈奇形,多発性硬化症,シェーグレン症候群などとの鑑別が重要である。
MRIで脊髄の圧迫や異常血管を示す所見がなく,急性期特有の脊髄腫脹や脊髄前半部での高信号域(拡散強調画像,T2強調画像)を認め,同部位がGd-DTPA造影で増強され,その上で他疾患を可能な限り除外できた場合に確定診断となる。血液検査で炎症所見なく,髄液検査で細胞数などの異常を認めない。
対症療法が中心で,脊髄浮腫軽減療法としてステロイドパルス療法,フリーラジカルスカベンジャーによる脳脊髄保護療法を開始しつつ,脊髄動脈起始部のアテローム硬化性病変に対する抗血小板・血流改善療法を速やかに行う。また,上位頸髄レベルの障害では,呼吸筋麻痺や肺炎,胸腰髄レベルの障害では,排尿障害や尿路感染,麻痺性イレウス,褥瘡などの併発症に注意する。
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