小児における麻疹・風疹ワクチンの定期予防接種率は高く維持されている
2015年3月に麻疹排除が認定されてから,麻疹の大規模な全国流行は抑制されているが,毎年,20~30歳代を中心として,輸入例を発端とした小規模の集団発生が起こっている
2019年は特に海外で麻疹流行規模が大きく,毎週,海外感染例が報告されている
2018~19年の風疹流行の中心は,予防接種歴なしあるいは接種歴不明の30~50歳代の成人男性である
2019年8月現在,首都圏を中心に風疹の流行が継続しており,2019年8月までに先天性風疹症候群が3人報告された
1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性を対象に,2019~21年度の3年間,抗体検査を実施した上で,低抗体価の者を対象に第5期風疹定期接種が実施されている
麻疹は空気感染,飛沫感染,接触感染で伝播し,感染力はきわめて強い。感受性者が麻疹ウイルスの曝露を受けると,ほぼ100%が顕性発症する。
2000年代初めのわが国では,年間20~30万人の麻疹患者が発生し,年間20人以上が麻疹により死亡していた。その後,1歳になったらすぐの麻疹ワクチン接種の徹底,2006年6月から弱毒生麻疹風疹混合ワクチン(以下,MRワクチン)を原則とする第1期(1歳児),第2期(小学校入学前1年間の幼児)の2回接種制度が導入され,小児の麻疹患者数は激減した。
一方,2007年から麻疹ワクチン未接種,1回接種あるいは接種歴不明の10~20歳代を中心とする全国流行が発生し,多数の大学や高等学校が麻疹により休校となった。これを受けて,「麻しんに関する特定感染症予防指針」が厚生労働省から告示され,麻疹は,5類感染症定点把握疾患から全数把握疾患に変更となった。2008年は1万人を超える大規模な全国流行となったが,2008年4月から5年間の時限措置で実施された第3期(中学1年生)と第4期(高校3年生相当年齢の人)の定期接種が,原則MRワクチンで行われたことにより,患者数は減少し,2015年3月の麻疹排除認定を迎えることができた。その後は,海外からの輸入例を発端として,毎年,数十~百人規模の集団発生が起こっているが,以前のような1万人を超える大規模な全国流行には至っていない(図1)1)。
2019年は,海外での麻疹の流行規模が大きく,国内麻疹排除認定後では最も報告数が多く(n=674:2019年8月21日現在暫定値),毎週海外感染例が報告されている(図2)1)。
麻疹の感染拡大を防止するためには,定期接種率を高く維持するとともに,2回の予防接種歴を記録で確認しておくことが大切である。また,1人発生した時点で迅速な積極的疫学調査を実施し,直ちに感染拡大防止策を講じることが重要である。
風疹は飛沫感染,接触感染で伝播し,感染力は強い。麻疹とは異なり,不顕性感染が約15~30%程度存在する。また,発症1週間前から周囲への感染力があることから,発生後の対策は困難である。
1977~95年3月まで実施されていた風疹の定期予防接種は,女子中学生のみを対象とした学校での集団接種であったことから,当時の男子中学生(1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性)は,現在もなお,風疹の抗体保有率が低く,この年齢で特に抗体保有率の男女差が大きい(図3)2)。また,1979年4月2日~1987年10月1日生まれの男女は,12歳以上16歳未満で風疹ワクチンによる定期接種の機会が1回あったが接種率が低かった。2006年6月から始まったMRワクチンの2回接種と,2008~12年度の5年間に実施された第3期,第4期の定期接種により,小児の風疹抗体保有率は高く維持されており,2012~13年ならびに2018~19年の風疹の流行の中心は,風疹ワクチン未接種あるいは,接種歴不明の成人男性であった。また,2018年7月末から始まった風疹の全国流行では,風疹患者の約95%が成人である。2012~13年の流行では45人が先天性風疹症候群と診断され,2018~19年の流行では,2019年第33週までに3人が先天性風疹症候群と診断された(図4)2)。
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