中咽頭癌は,硬口蓋,軟口蓋の移行部から舌骨上縁の高さ(または喉頭蓋谷底部)までの中咽頭領域に発生したがんであり,原発部位としては口蓋扁桃(側壁型)が最も多く,舌根(前壁型)がそれに続く。発がんの原因として喫煙・飲酒があるが,近年,ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)の発がんへの関与が報告され,わが国においてもHPV関連中咽頭癌が50%を占めることが報告されている1)。
初期は無症状のことが多いが,腫瘍増大により咽頭異物感,出血,疼痛,構音・嚥下障害を生じる。頸部リンパ節腫大を主訴とすることも多い。悪性リンパ腫との鑑別が必要である。
咽頭腫瘍からの生検や,頸部リンパ節からの穿刺吸引細胞診で上皮系悪性腫瘍細胞(90%以上が扁平上皮癌)が確認されれば確定診断となる。MRIや造影CTで原発巣の進展範囲や頸部リンパ節転移を評価する。中咽頭癌の20~30%に他部位の頭頸部癌や食道癌などの重複癌を認めるため,咽喉頭内視鏡検査とともに上部消化管内視鏡検査が推奨される。
HPV関連中咽頭癌は非関連癌に比べて予後良好であり,化学療法や放射線療法に対する感受性が高い。「頭頸部癌取扱い規約 第6版」(2018年1月改定)では,HPV関連中咽頭癌と非関連癌が区別して記載されており,HPV関連の有無を調べることはステージ分類決定の上で必要である。HPV関連癌の検出方法として,p16蛋白の免疫組織化学が一般的に用いられる。
現在のところHPV関連の有無による治療法の変更についてはエビデンスが確立されておらず,HPV関連癌/非関連癌ともに治療アルゴリズムは同一である。中咽頭癌は病期によって治療方針が異なるため,以下【局所早期癌(T1~T2)】,【局所進行癌(T3~T4)】,【手術不能の局所再発または遠隔転移を有する症例】にわけて述べる。放射線療法については,唾液腺への照射による唾液分泌障害を避けるため,施行可能な施設においては強度変調放射線治療(intensity modulated radiation therapy:IMRT)を行う。
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