医学論文の多くは、時が経てば朽ちていく。あるいは、「事実ではない」と覆される。いまこのときの「エビデンス」などかげろうのようなものだ。真実であるものは「思考の洗練」しかない。
患者をみる。心電図を読む。心エコーやCAGをみる。トライアルで織りなされた歴史の本筋を知り、「枯れた、筋のよい理屈」を理解する。
たくさんの情報があっても、「思考の洗練」がないと、どこにもたどり着かない。
病態、薬理、侵襲的治療の極意などは他の本にも書かれている。もっとシンプルなテキストも、もっと詳細なテキストもある。
循環器診療を扱っているようにみせて……、本書は知識の断片には、こだわっていない。
「犯人を追う歩き方」「職人の考え方」「大人としての発想」などフィロソフィーを語っている。
その意図があればこそ、論文の読み込み方、直感の活かし方、冠動脈を見る視点、薬理学の深み、意表を突く症例など「渋いところ」に話が向かうのだ。
18編の短編小説になっている。