No.4812 (2016年07月16日発行) P.20
太田宏人 (曹洞宗僧侶 新潟市・ささえ愛よろずケアタウン)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-01-23
このところ「臨床宗教師」がマスコミで取り上げられている。この臨床宗教師という人たちは「臨床」で、いったいどんな職能を持つのだろうか。または、持つことが期待されているのだろうか。
臨床宗教師研修の拠点であり出発点でもある東北大学大学院文学研究科の実践宗教学寄附講座のホームページによると、
「『臨床宗教師』とは、公共空間で心のケアを行うことができる宗教者を意味する(中略)。布教や伝道を行うのではなく、相手の価値観を尊重しながら、宗教者としての経験をいかして、苦難や悲嘆を抱える方々に寄り添います。仏教、キリスト教、神道など、さまざまな信仰を持つ宗教者が協力しています」
と、説明されている。職能としては、「心のケア」ということのようだ。なお「他宗教協働」は、「臨床宗教師」のポイントでもある。こういった超宗教・超宗派での大規模な動きは珍しい。他宗教への配慮ができるということは、活動が布教、または独りよがりになることを防ぐ。
臨床宗教師は、2011年に発生した東日本大震災での、宗教者による被災者支援の動きと、宮城県名取市で在宅の緩和ケアを行っていた故岡部健医師が提唱した「日本版チャプレン」構想がベースになっている。臨床宗教師という名称は、岡部医師の命名だ。
チャプレンは欧米等の病院や軍隊などで働く施設・組織付きの専従宗教者で、患者や家族、医療従事者や職員のスピリチュアルケアを担う。スピリチュアルケアとは、メンタルケアでは癒しきれない「魂の痛みのケア」と言えるだろうか。
チャプレンは患者らの信仰を遵守し、他宗教の信者への強制的な宗教介入は行わないものの、病院内で祈祷などの宗教行為を行う。岡部医師は、日本の医療界、とくに終末期において、宗教のちからに大きな期待を寄せていた。
2012年4月から東北大学で臨床宗教師の研修(養成)が開始された。同大の研修プログラムは現在、①全体会1(3日間。座学とロールプレイング、被災地での傾聴実習等)、②実習期間1(12時間以上。全国の医療および介護施設で臨床実習)、③全体会2(2日間。座学と実習振り返り等)、④実習期間2(12時間以上)、⑤全体会3(2日間。座学、実習振り返り、修了式)──となっている。
内容は濃密だが、10日程度の研修で、ある種の専門的職能が「完成」されるとは到底思えない。この研修は、彼らの出発点であり、通過点に過ぎないのだろう。
しかしながら「臨床宗教師」にかける宗教界の思いは熱く、同研修はその後、龍谷大学、鶴見大学、高野山大学、武蔵野大学、種智院大学等の宗教系大学へ広がった。本年2月28日には、これらの大学の養成機関が共同し、日本臨床宗教師会(島薗進会長)が立ち上げられ、臨床宗教師の「名称独占資格化」と「養成プログラムの統一化」へ本格的に動き出したといえる。本年2月末での研修修了者は、医師、宗教関係者など約150人である。
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