訪問診療は、生活の場において様々な虚弱性を持った患者さんの生活をよりよく支えることが目的である。医療的対応はもとより、精神的な支援や時には社会的支援を織り交ぜながら、それぞれの患者さんに合わせたきめ細やかな対応が必要とされる。
かつて日本では長いこと、かかりつけ医の地域医療活動の一環として往診が行われてきた。当時は、教科書はおろかマニュアルなどもなく、それぞれの医師の個別の努力にゆだねられる独自裁量性の強い医療だった。しかし近年、急激に進む高齢化に対応するため、訪問診療をより多くの患者さんに提供できる体制が求められている。入院日数の短縮化や介護サービスの社会基盤の整備も進み、チーム医療としての訪問診療のあり方が重視されている。
チーム医療を継続するためには、新たな手法、組織化が必要となる。特に組織化、つまり組織マネジメントの必要性が高まっている。従来、地域医療においてはマネジメント基盤が乏しかったこともあり、今も手探りの努力が続いているのが実情である。その一方で、マネジメントの成否によって、医療機関の規模はもとより、診療内容なども大きく左右される時代になったといえる。
本書の編著者である姜先生は、ビジネススクールでMBAを取得されたのちに、訪問診療を複数の医療機関で研鑽され、さらに自ら開業した異色の経歴の持ち主である。
開業する以前から訪問診療においてマネジメントの重要性を認識され、マネジメント的手法をもとに骨太なフレームを構築し、地域になくてはならない訪問診療医療機関を設立されたのは、著者の先見性の証左でもある。
時としてマネジメントは固定的、普遍的法則のように語られることがあるが、本書では、開設当初のマネジメント、一人で対応しているときのマネジメント、規模が拡大したときのマネジメントなど、まさに医療機関の成長に合わせた最適のマネジメントについて述べられている。医療機関の規模や実情ごとに異なるマネジメントを説いているのが実践的である。
これから訪問診療医療機関を開設する方のみならず、すでに手探りで訪問診療マネジメントを行っている諸氏にとっても普段の実践を整理したり、多くの新たな学びを得る機会になると確信する。本書を通じて、チーム医療時代の地域医療におけるマネジメントの重要性をより多くの方に認識していただければと考える。