レプトスピラ菌によって引き起こされる人獣共通感染症である。レプトスピラ菌はネズミなどのげっ歯類を中心とした哺乳動物の腎に感染し,尿中に排泄される。その汚染された尿や土壌・水などの環境に接触することにより感染する(経皮・経口感染)。台風や洪水の後にも発生し,下水道工事関係者や畜産関係者にもみられることがある。沖縄本島北部や石垣島・西表島での河川などで発生者が多い(河川への訪問歴が重要)。東南アジアや中南米などの亜熱帯・熱帯地域でも発生報告がある(渡航歴が重要)。
河川や汚染された水との接触歴が重要である。感染してから数日から2週間ほどで発症する。
軽症例では,発熱(97%)や頭痛,咽頭痛,嘔気,筋肉痛(60%),眼球結膜充血(60%)などがみられる。症状はインフルエンザに類似することから,軽症例はウイルス感染症として誤診されている可能性がある。病歴聴取が重要となる。両眼の眼球結膜充血は診断の助けとなる。
無菌性髄膜炎がみられることがあり,成人よりも小児に多い。初期であれば,髄液培養でレプトスピラが分離されることもある。髄膜炎症状は多くの場合数日で改善するが,数週間持続することもある。
高熱,黄疸(5~10%),腎機能障害(50%,蛋白尿も伴う)などが出て,急速に重篤化することもある。ショックや播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)となり,死亡することもある。高齢者,意識障害,急性腎不全,急性呼吸不全,低血圧,不整脈などが生じると予後不良となる。重症例の場合,治癒後も倦怠感や頭痛が数年にわたり持続することがある。
レプトスピラ菌の培養による分離を行う(コルトフ培地を用いて血液・尿を培養。感度40%,特異度60%)。検体により陽性になる時期が異なるので,採取時期に留意する(血液:発症前~発熱後10日間,尿:発熱後8日目~4週間)。培養期間は30℃で数週間,PCR法やペア血清を用いた抗体価測定法も可である。
レプトスピラ症が疑われたら,培養用検体採取後に速やかに抗菌薬治療を開始する。軽症例は経口ドキシサイクリン,中等症~重症は静注用ペニシリンでの治療が基本である。ドキシサイクリンに代えてミノサイクリンでも治療可能だが,ドキシサイクリンのほうが前庭障害や色素沈着などの副作用発現が少ない。
入院患者では支持療法も必要である。腎不全初期では利尿と低カリウム血症がみられるため,脱水症と急性尿細管壊死を防ぐための輸液とカリウム補充が必要である。腎不全が進行した場合には血液透析を行う。肺胞出血を起こした場合には気管内挿管を行い,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)に準じた治療を行う。
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