【特異的メモリーB細胞による免疫記憶が残るか否か】
23価肺炎球菌多糖体ワクチン(PPSV23)には,23種類の莢膜多糖体が単独で含まれています。多糖体はT細胞非依存性抗原であり,B細胞だけを刺激し,多糖体抗体が産生されます1)。T細胞が関与せず莢膜多糖体に特異的なメモリーB細胞が誘導されないため,抗体は5~10年後には接種前のレベルに緩やかに減衰し,免疫記憶が残りません。したがって,5年後の再接種が推奨されています2)。
一方,13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)は,13種類の莢膜多糖体にそれぞれキャリア蛋白質として無毒性変異ジフテリア毒素(CRM197)を結合しています。そのため,抗原提示機能を持つB細胞でプロセッシングを受けた多糖体の一部が蛋白質とともにMHC class Ⅱ分子を介してT細胞に抗原提示されます1)3)。抗原提示を受けたヘルパーT細胞の働きで,B細胞による多糖体抗体の産生が多糖体単独抗原の場合よりも高まります。また特異的メモリーB細胞も形成されるため,再び特異的莢膜多糖体抗原の曝露を受けると,速やかに抗体産生が開始されます。実際に,接種5年後の抗体価は,接種前よりも高いレベルで維持されていることが報告されています4)。以上の理由から,成人におけるPCV13の接種回数は現時点では1回でよく,再接種は不要とされています。
ただし,成人にPCV13が接種され始めてまだ数年であり,さらに何年間ぐらい免疫が持続するかについては不明であるため,今後も1回接種でよいのか検討が必要と考えます。侵襲性肺炎球菌感染症のリスクが高い無脾症患者では,再接種を想定して初回接種から5年後に抗体測定を勧める研究成果も報告されています5)。
【文献】
1) Pollard AJ, et al:Nat Rev Immunol. 2009;9(3): 213-20.
2) 大石和徳, 他:感染症誌. 2017;91(4):543-52.
3) Lai Z, et al:Vaccine. 2009;27(24):3137-44.
4) Frenck RW Jr, et al:Vaccine. 2016;34(30): 3454-62.
5) Papadatou I, et al:Ann Hematol. 2019;98(3): 775-9.
【回答者】
西 順一郎 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野教授