SUMMARY
診断エラーの背景には,認知バイアス,システム・環境要因などが存在し,臨床現場での意思決定に影響を与えている。我々は医療現場に存在する構造的な問題が私たちの臨床診断(特に直観的思考)をゆがませている可能性を考慮するとともに,診断の不確実性について患者・患者家族に共有することで,適切なフォローアップに繋げていく必要がある。
KEYWORD
認知バイアス
我々が臨床現場で事象を解釈・判断する場合,文脈や状況に沿ってその判断は何らかの歪み(バイアス)の影響を受ける。特に,経験ある臨床医が活用するsystem 1(直観的思考,ヒューリスティック)に基づく診断は有用である一方で,陰性感情や疲労,環境要因などの影響を受けやすく,診断エラーを生じる場合がある。
PROFILE
2006年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。東京都立府中病院にて初期臨床研修,後期臨床研修を修了。2016年4月より現職。臨床現場での診断エラー,卒後研修教育,病院におけるマネジメント・組織行動論に興味があり,学習を続けつつ院内外での教育活動を行っている。
POLICY・座右の銘
If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
日本における診断エラーの歴史としては東京大学医学部第三内科教授であった冲中重雄氏が1963年の退官時の最終講義において“私の誤診率”として,自身の診療における臨床診断と剖検での病理診断の不一致率が14.2%であったことを示した1)。それを皮切りに,同時期に複数の書籍の発刊や講演会の開催などがあり,診断の早期閉鎖などが起こる理由についての分析などが行われていた記録が残っている。
その一方で,海外におけるdiagnostic error(診断エラー)という概念は,2005年にPat CroskerryがCanadian Patient Safety Conference Seriesにおいて診断エラーのワークショップを開催したことを皮切りに,診断エラーに関連する知見を議論する場としてのDiagnostic Error in Medicine Conferenceが2008年から開催され,診断の質改善を目的とした組織体として2011年にSociety to Improve Diagnosis in Medicine(SIDM:臨床診断改善学会)が発足した2)ことで定着した。