ナルコレプシー(narcolepsy)は日中の過度の眠気(excessive daytime sleepiness:EDS)とレム睡眠関連症状を特徴とする,中枢性過眠症の代表的な疾患である。有病率は日本人で600人に1人程度で日本人に多く,10歳代前半の発症が多い。
過眠症状:EDSと居眠りが代表的で,食事中や散歩中などにも耐え難い眠気を感じて眠り込む(睡眠発作)。睡眠発作は30分程度の短時間で,覚醒後は眠気が一時的に消失することが多い。
レム睡眠関連症状:情動脱力発作(カタプレキシー)はタイプ1に特異的で,笑いや驚きなど強い情動の変化に伴って生じる全身性の抗重力筋の脱力発作である。個人差が大きいが通常は数秒~数分程度で,発作中は意識清明である。睡眠麻痺は入眠時など睡眠と覚醒の移行期に生じる一過性の全身性の脱力(いわゆる金縛り)である。入眠時幻覚は入眠時に体験する鮮明な幻覚で,視覚以外にも様々な感覚が生じる。睡眠麻痺と入眠時幻覚は健常者も睡眠不足の際などに呈しうる。
熟眠障害:日中の眠気に反して夜間の睡眠は分断されやすく,頻回に中途覚醒がみられる。
代謝障害:半数程度に肥満などメタボリックシンドロームの合併,体温調節障害がみられる。
精神障害:うつ病や不安障害の合併が多い。また,失敗体験の反復により,大雑把で諦めやすい一方,人がよく頼みごとを断れないナルコレプトイド性格となることが多い。
睡眠時随伴症:周期性四肢運動やレム睡眠行動障害などの合併が多い。
診断基準:「睡眠障害国際分類 第3版」に記載されており,タイプ1と2の病型に分類されている。
主観的眠気評価:エプワース眠気尺度が頻用される。カットオフ10/11点以上であるが,16点以上が多い。
睡眠ポリグラフ検査:終夜を通して睡眠潜時(寝入るまでの時間),脳波による睡眠の深さと質,睡眠中断の原因となる不随意運動や無呼吸の有無などをモニタリングする。短い睡眠潜時,入眠時レム睡眠,睡眠の分断が特徴的である。
反復睡眠潜時検査:日中に4~5回,最大20分の昼寝試行を行い,睡眠潜時を評価する。原則として,ナルコレプシーの確定診断には8分以下の平均睡眠潜時,2回以上の入眠時レム睡眠が必須である。
オレキシン:タイプ1の患者の多くで脳脊髄液中オレキシン値が110pg/mL以下となる(正常200pg/mL以上)。
ヒト主要組織抗原:タイプ1の患者では,HLA-DR2(DRB1*1501)やDQ6(DQB1*0602)の陽性が多い。
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