Creutzfeldt-Jakob病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD)に代表されるプリオン病は,脳における海綿状変化と異常プリオン蛋白(scrapie prion protein:PrPSc)蓄積を特徴とする。ヒトのプリオン病は病因から,孤発性CJD(sporadic CJD:sCJD),遺伝性プリオン病,獲得性プリオン病に分類され,その発症率は人口100万人当たり年間約1人とされている。プリオン病はPrPScを介して同種間や異種間を伝播すると考えられており,通常の殺菌法や消毒法が無効であるため,医療現場における二次感染予防の面からも,その早期診断は重要である。
ヒトプリオン病には様々な病型があり,臨床的に診断する際にはそれぞれの病型の違いを考えながら,診察・検査を進めていく必要がある。
プリオン病を発症した原因が不明のもので,わが国のプリオン病全体の75.5%を占める1)。sCJDはPrP遺伝子のコドン129多型〔メチオニン(M)とバリン(V)の2種類のアリル,MM,MV,VVの3種類の遺伝子型が存在する〕とプロテアーゼ抵抗性PrPのウェスタンブロットパターン(1型または2型に大別される)により6型(MM1,MM2,MV1,MV2,VV1,VV2)に分類され,それぞれ特徴的な臨床症状,病理像を呈する2)。
sCJDの約70%は,急速な進行の認知症やミオクローヌス,脳波での周期性同期性放電(periodic synchronous discharge:PSD)の出現など,典型的なsCJD病像を呈し,それらの多くはMM1型またはMV1型に含まれ,WHOのsCJD診断基準3)により臨床的にほぼ確実例と診断できる。頭部MRI拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)の皮質および基底核高信号,脳脊髄液14-3-3蛋白陽性を認めることが多い。しかし,その他の4型は,非典型的な病像がその臨床診断を困難にしている。
遺伝性CJD,Gerstmann-Sträussler-Scheinker病,致死性家族性不眠症の3病型に大別される。プリオン病を疑う神経症候を認め,PrP遺伝子検査で異常を認めれば診断が可能である。わが国に多いV180IあるいはM232R変異を有する遺伝性CJDについては家族歴がほとんどなく1),家族歴がないことでは否定できない。
パプアニューギニアの儀式的食人から感染したクールー,医療行為により感染した医原性プリオン病,ウシ海綿状脳症からヒトへの感染の可能性が考えられている変異型CJD(variant CJD:vCJD)が含まれる。わが国の獲得性プリオン病はvCJDの1例を除き,全例が硬膜移植後CJDである。
プリオン病の診断は,経過・身体所見からプリオン病を疑うことから始まるが,その後,脳波,頭部MRI,脳脊髄液検査等の結果を参考にしながら臨床診断に至る。また,PrP遺伝子検査は,遺伝性プリオン病の診断あるいは遺伝性プリオン病を否定するために必要であり,さらにsCJDにおいても,コドン129多型を知ることは,病型を推定する上で重要である。加えて,硬膜移植歴等のプリオン病伝播の可能性のある医療行為の既往やvCJD多発地域等の海外渡航歴の確認も必要である。それらの情報をもとに,診断基準3)を参考にしながら臨床診断を行う。最近では患者の脳脊髄液からPrPScを直接検出するreal-time quaking-induced conversion法の有用性が報告されている。
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