本書は現代医療における腰痛診療の問題点を再認識させてくれる良書である。患者が示す様々な訴えに真摯に耳を傾け、詳細に診察所見を取ることで、レントゲン、CTやMRIなどの画像診断に頼らずとも、痛みの原因は見えてくることを筆者は強調する。
─腰痛のうち、原因が特定できる「特異的腰痛」は 15%で、残りの85%は痛みの原因がわからない「非特異的腰痛」である─〔資料出所:What can the history and physical examination tell us about low back pain?. JAMA. 1992;268(6):760-5〕。この今でも実臨床の現場を席巻している「特異的腰痛」と「非特異的腰痛」の概念が世に出たのは実に四半世紀以上も前のことである。新知見が次から次へと解明され、日々めまぐるしく進化する医学医療の世界で、この既成の概念が真実であり続けることは絶対にないと固く信じてきた私にとって、まさに「我が意を得たり」の本と言える。
「画像異常は必ずしも症候性を意味しない」ことは、医学界の常識である。にもかかわらず、「画像で異常が認められないから、科学的に痛みの原因を説明できない」という誤った固定観念に長年振り回されてきた医療従事者は、本書を熟読することで症候学の重要性を再認識し、明日からの日常臨床に活用しなければいけない。
また本書のトピックスとして、今後、腰痛治療の新しい世界を切り拓くと期待される運動器超音波診療に多くの誌面が割かれている。問診と診察所見から推察される痛みの発生源をエコーで探索し、ハイドロリリースや各種ブロック療法による機能診断で責任高位を同定する新しい治療アルゴリズムは必読である。X線診断できる腰痛疾患より、超音波診断できる腰痛疾患のほうが圧倒的に多いという事実は、読者にきっと衝撃を与えるであろう。
いずれにしても、本書の読者がリサーチマインドを持った明日からの新しい腰痛治療の担い手として一人でも多く育つことで、患者に触れない、画像からしか診断できない医者が医療現場から消えていくことを祈念している。