膝関節の特発性骨壊死症は,中高年の女性の大腿骨内側顆に好発する疾患であり,突然起こる強い膝痛で発症することが多い。一般にみられる変形性膝関節症と比べて,膝痛の程度は強く,安静時や夜間痛が目立つことが症状の特徴である。しばしば内側半月板後角損傷が併存しており,半月板のhoop機能の破綻とこれに続発する粗鬆骨への接触圧増加によって生じる,軟骨下脆弱性骨折が本症の病態のひとつであると指摘されている。そのため,段差でつまずいたり,階段を踏み外したりといった軽微な外傷をきっかけに発症する例が少なくない。病期が進行すると壊死部が圧潰し,二次性の変形性膝関節症をきたす。
典型例では,X線像において骨透亮像や石灰板,関節面の平坦化や陥凹などの所見を認める。本症の病期としては,X線像において所見のない「発症期」,骨透亮像を認める「吸収期」,関節面の平坦化や陥凹を認める「陥凹期」,さらに「変性期」に分類される。病期が進行した変性期では,関節裂隙の狭小化や骨棘形成などの変形性関節症の所見が目立つようになる。発症期にはX線像で異常がないことを認識しておくことが重要で,早期診断のためにはMRI検査を要する。MRIでは,T1強調像での低輝度病変およびT2強調像やSTIR像での高輝度病変としてとらえられる。
本疾患を早期に診断するポイントは,中高年の女性で特徴的な症状(突然発症する強い膝痛,安静時・夜間痛など)があれば本疾患を疑ってMRI検査を行うことである。また,発症の誘因やその日時を患者が覚えていることもあり,丁寧な問診をして誘因となりうる軽微な外傷を聞き逃さないことも重要である。
初期例は保存療法で治癒することが多く,早期発見,早期治療を心がける。治療の中で最優先すべきは,患部の免荷である。軟骨下骨の脆弱性骨折が本症の病態であると考えると,病変部への力学的負荷を減じることの重要性が理解できると思われる。歩行制限や杖の使用を指導し,外側楔状足底板の処方を行う。疼痛に対しては鎮痛薬を処方するが,薬で痛みを緩和して自由に歩行させることは避けたい。患部の免荷でとりきれない痛みに対して薬物療法を適宜加える。
保存療法に抵抗性の場合や病期の進行が速い場合には手術が検討される。手術は,高位脛骨骨切り術に代表される関節温存手術と人工膝関節置換術の2つに大別される。人工膝関節置換術はさらに,全人工膝関節置換術と片側コンパートメントのみを置換する単顆型人工膝関節置換術にわけられる。それぞれの手術適応は,年齢,活動性,病期,変形,膝関節機能などを考慮して決められる。なお,病期進行のリスク因子として,大腿脛骨関節角が180°以上の内反アライメントや,大腿骨内側顆の50%以上を占める大きな壊死などが挙げられており,これらの所見を認める場合には病期が進行し手術療法を要する可能性があることをあらかじめ説明しておく。経過観察中に病期が進行していく場合には,膝関節機能や歩行機能が著しく低下する前に手術を行う必要がある。特に関節温存手術は重症例には適応できないため,そのタイミングを失わないように専門医にコンサルトすることが望ましい。
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