【生物学的利用率の低いステロイド点鼻薬は,安全性が高い】
ステロイドは,アレルギー性鼻炎の主たる炎症反応であるアラキドン酸代謝およびサイトカイン産生の抑制という2つの作用機序によって高い効果を発現します。アレルギー炎症の遷延化の原因となる好酸球炎症に対しても抑制効果をもたらすため,通年性で症状の強い患者にも効果的な薬剤です。反面,ステロイドは全身性に用いると重篤な副作用が発現することも周知の事実です。小林ら1)が嗅覚障害に対して長期のステロイド点鼻療法を行った際,1~2カ月で血清副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH),コルチゾール値の低下が出現したと報告しています。従来からあるベタメタゾン点鼻液やデキサメタゾン点鼻液は,薬剤の点鼻滴下後に咽頭へと落下します。したがって,これらの薬剤を使用の際には注意が必要です。
しかし,従前のステロイド点鼻液は現在ほとんど使用されなくなり,生物学的利用率が1%未満2)という全身的な副作用の発現率の低いステロイド点鼻薬が主たる薬剤となっています。薬剤のほとんどは体内に吸収されないため,安全性は高いと考えることができます。長期的な安全性の検討も報告されており3)4),小児の成長にも影響を及ぼさなかったと報告されています2)5)。以上からも,生物学的利用率の低いステロイド点鼻薬は長期的な使用に際しても,安全性が高い薬剤と考えることができます。
局所の副作用として粘膜上皮への影響が心配されますが,長期間のステロイド点鼻薬を使用した症例に対して鼻粘膜上皮を生検した検討では,鼻粘膜上皮の萎縮は認めなかったと報告されています6)7)。また,実際に臨床で多く経験する副作用は,鼻粘膜の刺激感,乾燥,鼻出血などが挙げられます。これらの副作用を回避するには,生活指導による症状改善や根治治療である免疫療法を導入することにより薬剤使用量を減量させることが不可欠です。
効果発現のメカニズムの異なる薬剤に切り替えることも有効です。たとえば,鼻噴霧用ケミカルメディエーター遊離抑制薬に変更することでもこれらの副作用を軽減し,マイルドな効果であるものの生活指導とともに症状の改善に十分な効果を得られることも少なくありません。
長年薬剤なしに症状改善の得にくい患者の中には,鼻中隔弯曲症や不可逆的な粘膜肥厚を認め手術適応となる症例の場合もありますし,免疫療法の導入も検討することも必要です。そのような症例には,手術や免疫療法の適応についてアレルギー専門医への受診を検討することも,質の高い医療をもたらすものと考えられます。
【文献】
1) 小林正佳, 他:日耳鼻会報. 2005;108(10):986-95.
2) Scadding G:Paediatr Drugs. 2008;10(3):151-62.
3) 石川哮, 他:耳鼻臨床 補冊. 2008;122:1-17.
4) 大久保公裕, 他:アレルギー免疫. 2009;16(3):374- 85.
5) Schenkel EJ, et al:Pediatrics. 2000;105(2): E22.
6) Minshall E, et al:Otolaryngol Head Neck Surg. 1998;118(5):648-54.
7) Fokkens WJ, et al:Am J Rhinol Allergy. 2012; 26(1):36-44.
【回答者】
遠藤朝則 国家公務員共済組合連合会東京共済病院