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喫煙による病気はタバコの煙による気道の障害,吸収だけか?

No.5017 (2020年06月20日発行) P.54

作田 学  (日本禁煙学会理事長)

登録日: 2020-06-23

最終更新日: 2020-06-16

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(1)喫煙による病気は,タバコの煙による気道の障害や気道からの吸収だけでしょうか。タバコによる口腔内細菌叢の変化や,口腔内に付着したタバコの煙を唾や飲食物と一緒に嚥下することによる食品と同様の消化吸収も考えられないでしょうか(小生は健康診断の胃のバリウム検査の読影をしていますが,胸のX線読影以上に胃のバリウム検査で喫煙しているかどうかわかります)。
(2)日本医事新報4974号(2019年8月24日発行)の『提言:禁煙治療と医師・看護師』を読みました。喫煙は命を縮める分,年金支給費や生活保護費が削減され,社会保障費が抑制されているのではないでしょうか。(東京都 N)


【回答】

【唾液等に混ざることにより,タバコ成分は様々な臓器に吸収される】

(1)喫煙による病気

おっしゃるとおり,喫煙をすると口腔・鼻腔に入り,そこから一方は喉頭,気管支,肺に入ります。一方で唾液等に混じったタバコ成分は咽頭,食道,胃,腸に入っていきます。さらに肺静脈,胃,腸管などから吸収されたタバコ成分は肝,膵を通り,尿管,腎,膀胱,さらに女性では乳,子宮,卵巣に至ります。

したがって,これらの臓器のすべてにおいて高頻度にがんを発生することが証明されています1)

また,喫煙がプロスタグランジンなどの血管作動物質に影響して胃粘膜血流の低下,粘膜の防御力低下を引き起こすことから,消化性潰瘍の発生ならびに治療を妨げる要因となっていることは古くから知られていました。喫煙者の消化性潰瘍のリスクは,非喫煙者の3.4倍と言われています2)。ヘビースモーカーの夏目漱石が胃潰瘍で長くわずらい,結局はそれが命取りになったことはよく知られた事実です。

(2)喫煙と社会保障費

喫煙者は平均余命が男性では8年,女性では10年短くなります。また,60歳まで生存した男性の健康寿命が3.9年,女性では4.3年短くなります3)。一方,デンマークの研究によりますと,非健康の期間は非喫煙者が8年であるのに対し,喫煙者は13年となっており,早死にはするものの喫煙者は非喫煙者より5年も長く医療費を使うことになります。

また,喫煙者は一般に非喫煙者に比べ,低学歴で低所得であることが明らかにされています。たとえば35~44歳で見ますと,中学卒の喫煙歴が57.8%であるのに比して段階的に低下していき,大学院卒が16.8%となります4)
男性の生活保護受給者の喫煙率は58%であるのに対して,年収200万円以下は40%,600万円以上は27%です。1日1箱500円の喫煙を50年間続けるとおよそ1000万円になりますので,貧乏にもなろうというものです。

つまり,喫煙をするほど生活保護の受給者になりやすく,また医療費も長期間必要となり,したがって社会保障費が多くかかるのです。

これらのことから,個人の社会的な幸福に与える喫煙の及ぼす悪影響がいかにひどいものかわかると思います。単純に喫煙者は早く死ぬから年金の支出が少なくてすむという乱暴な意見には必ずしも賛成できないことがおわかりと思います。

【文献】

1) 郷間 巌:禁煙学 第4版. 日本禁煙学会, 編. 南山堂, 2019, p28.

2) 北野正剛:禁煙学 第4版. 日本禁煙学会, 編. 南山堂, 2019, p58.

3) 松崎道幸:禁煙学 第4版. 日本禁煙学会, 編. 南山堂, 2019, p26.

4) 厚生労働省:国民生活基礎調査. 2010.

【回答者】

作田 学 日本禁煙学会理事長

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