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狂犬病[私の治療]

No.5018 (2020年06月27日発行) P.42

中村(内山)ふくみ (都立墨東病院感染症科部長)

登録日: 2020-06-27

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  • 狂犬病ウイルスを保有する動物に噛まれたり,引っかかれたりして傷口からウイルスが侵入することにより発症する人獣共通感染症である。イヌだけでなくネコやコウモリ,アライグマ,スカンク,コヨーテ,キツネなどの野生動物がウイルスを保有する。狂犬病の死亡率はほぼ100%である。

    ▶診断のポイント

    動物咬傷,擦過傷が明らかな場合は狂犬病が鑑別に挙がるが,意識障害が進行した状態では本人からの聴取は困難である。家族や友人から得られる渡航歴や現地での活動歴が手がかりになることがある。

    【症状】

    潜伏期は受傷部位,ウイルス量などにより幅があるが,多くの患者は受傷後20~90日で発症する1)

    前駆期:発熱,食欲不振,咬傷部位の痛みや瘙痒感。

    急性神経症状期:興奮性,精神錯乱といった脳炎症状が優位な狂躁型(furious rabies)と,麻痺や構音障害が優位な麻痺型(paralytic rabies)がある1)。この時期にみられる恐水症状および恐風症状は狂犬病に特徴的である。

    昏睡期:上記症状に続いて昏睡に陥り,呼吸筋麻痺から死に至る。

    【診断】

    診断は患者検体(唾液,髄液,血清)からのPCR法による病原体の遺伝子の検出,ウイルス分離,抗ウイルス抗体の検出による。このほか,角膜,皮膚,唾液腺を検体とし,蛍光抗体(FA)法によるウイルス抗原検出により診断する。狂犬病は4類感染症であり,疑った場合には診断を確定して届け出る必要があるため,保健所に相談し検体搬送や検査を進めていく。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    狂犬病の死亡率はほぼ100%である。2004年に救命できた例の治療はMilwaukee rabies protocolと呼ばれる。これは,麻酔薬で患者を昏睡状態にし,呼吸・循環管理と抗ウイルス薬の投与,痙攣などに対する対症療法を集中治療室で行ったものである。狂犬病を発症し救命できた例はこれまでに14例が報告されているが,ほとんどは重篤な後遺症を残している1)。治療目的とはいえ昏睡を誘導することは推奨されないこと,管理中の様々なリスクがあり利点が不明なことから,標準治療として合意を得ているものではない1)。したがって,狂犬病は発症予防が非常に重要である。

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