横山 朗 (日本M&Aセンター 医療介護支援部 ディールマネージャー)
西山 賢太 (日本M&Aセンター 医療介護支援部 コンサルティング室)
登録日: 2020-08-27
最終更新日: 2020-09-03
M&Aという言葉を聞くとどのようなイメージを皆さんは思い浮かべるでしょうか?
「身売り」や「敵対的買収」というマイナスイメージを持つ方も少なくないと思います。 医療業界におけるM&Aはほとんど公にならないため誤解をされている方が多くいらっしゃいます。本稿では「正答率10%未満、クリニックM&A 5つの誤解」と題して、医療業界におけるM&Aの真実をお伝えいたします。
M&Aと聞くと条件反射で「身売り」「乗っ取り」をイメージする方はいまだ多いのではないでしょうか。筆者が日本M&Aセンターに入社する前、病院に勤務していた時は、「M&A=邪悪なもの」として認識をしていました。しかし入社後ほどなくして、ドラマや報道で見る大企業の派手な買収劇は医療機関のM&Aにおいては全くといっていいほど存在しないことが分かりました。国内の企業M&Aにおいても実際は99%が友好的なものです。M&Aの本質は身売りや乗っ取りというものとは程遠く、後継者問題の有力な解決手法であるほか、企業同士の成長を実現するためのパートナーシップの実現として用いられる手法なのです。
昨今、医療機関である病院やクリニックでも、M&Aを通じた後継者探しや経営基盤を強固にするためのグループ化を図る手法としても用いられています。
日本医師会総合政策研究機構が2019年に公表した医療機関の事業承継に関するレポート「医業承継の現状と課題」には、無床診療所の後継者不在率89.3%という驚きの結果が示されています。子供が家業を継ぐのが当たり前だった昔とは異なり、「今や子供が家業を継ぐほうが珍しい時代」になったと言えます。
「親子で専門診療科が異なるため引継ぎは難しい」
「急性期病院の臨床医として生涯のキャリアを築きたい」
「承継後に院長として労務管理や経営に携わるのは不安」
「結婚をして都心に家を買った、子供を私立の学校へ通わせたく、生活圏を変えるつもりはない」
このように子供からクリニックの承継を断られてしまったという相談も増えてきています。医師という専門性が承継の障壁となっているだけではなく、医師が抱く価値観が変わってきているのは間違いありません。
しかしご安心ください。子供が家業を継がなくてもこの日本には毎年7,000人も開業したいと思っている医師がいます。その医師たちの中で、誰かのクリニックを引き継いで開業したいと思っている方も数多くいるのです。
M&Aをすると「法人名や施設名がなくなる、または変わってしまうのか?」というご質問を多くいただきます。
結論としては、法人名や施設名は、多くの場合、すぐには変わりません。クリニックの施設名に現院長の名前が入っていることもありますが、この場合もすぐに施設名を変えるケースはほとんどありません。せっかくその地域で視認性があり、認知されている施設名を変えることのほうが、集患に影響を与え経営的なリスクになるからです。新しい先生が着任してから患者さんが慣れるまでは、名称はそのままとする方が多いです。どうしても法人名や施設名を変えてほしくない・残したいという場合は、引継ぎ時の契約条項で定めることも可能です。
従業員が辞めさせられることはまずありません。M&Aにおいて従業員の雇用や処遇は維持されるのが基本です。
特にクリニックのM&Aでは従業員が大切に扱われます。なぜなら、新しい院長は初めての経営を任されながら診療も行わなくてはいけません。慣れない環境で仕事をしなければならず、不安な中でフォローしてくれるのが従業員です。患者さんごとの癖や要望、書類の場所から問い合わせ対応の方法まで院内のすべてを知り尽くしている従業員は新しい院長になっても大切な存在です。事業承継は、通常従業員も含めての承継ですのでご安心ください。
「M&Aでクリニックを譲渡したら、必ず辞めなければならないのか」という質問も多くいただきます。必ずしもそうではありません。
「3年間後に引退をしたい」「週2回だけ非常勤として勤務したい」、このような希望を出して叶えられた先生もこれまで多くいらっしゃいました。また、理事長や院長として、クリニックに残るケースもあります。事業承継を検討する際は、現院長がこれからどのような働き方・暮らし方をしていきたかというビジョンまで具体的にお聞きします。そのご要望を叶えられる相手を探すのが、私たち医療機関M&A専門コンサルタントの役割です。
本稿では、「正答率10%未満、クリニックM&A 5つの誤解」と題して、特に質問の多い5つの疑問に関してお答えをしました。M&Aに対するイメージは、日に日に変わって来ておりますが、まだまだ誤解が多いのが実情です。M&Aを選択するかしないかは別として、事業承継や今後の拡大戦略、経営課題解決の選択肢として有効な手法であることから、医療機関経営者の皆様にも適切にご理解いただきたく本稿を執筆いたしました。
クリニックM&Aをもっと知りたい・理解したい方は、お気軽に日本M&Aセンターまでお問い合わせください。医療機関の事業承継・M&Aを専門とする専任メンバーが誠心誠意対応させていただきます。