No.5026 (2020年08月22日発行) P.56
岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部長)
登録日: 2020-08-04
最終更新日: 2020-08-04
コロナ禍で一躍注目されるようになった医学分野に理論疫学がある。数理モデルを構築し、流行や拡大の予測に用いることが理論疫学の真骨頂であり、筆者も専門家といえるほどではないが、注射器使い回しによる肝炎感染拡大を二項分布を用いて予測するモデルを構築し、B型肝炎の垂直と水平感染割合を世代別に推計した時、一種の興奮を覚えたことがある1)。
コロナ対策でわが国は、理論疫学のひとつの定理(あるいは証明不要の「公理」というべきか)を実証したのではないか。その定理が、表題である。
コロナ対策を巡って日韓両国は正反対のポリシーをとってきた。韓国が徹底してPCR検査を推進したのに対して、わが国は、クラスター対策を重視し検査は抑制する、というポリシーを流行当初はとっていた。筆者は、こうしたポリシーに不安を感じていた。感染や流行は検査数とは無関係である。にもかかわらず「検査を増やすと感染者数が増える」といった懸念(!?)が専門家からも聞かれた。検査を抑制することは「見逃し」を増やすだけなのに…。
それでも、緊急事態宣言が奏功して流行が韓国と同パターンで終息する気配を見せた頃、筆者もほのかな期待を抱いた2)。結果として韓国と同じパターンをたどったなら、無差別にPCR検査を実施する諸外国と少なくとも同様の効果を日本式は有する、ことが実証される。
だが…両国の流行の推移(図)を比較すると結果は明らかだろう。「一人の感染者からの平均感染者数を1未満に抑制すれば二次三次の感染者数は減少しやがて終息する」が理論疫学のもうひとつの定理である。0.5を何乗もすれば限りなくゼロに近づいてゆく。しかし決してゼロにはならない。そんな当たり前の「数理」がモデルに入っていなかったのだろうか。
【文献】
1)https://idpjournal.biomedcentral.com/track/pdf/10.1186/2049-9957-2-28
2)岡本悦司:医事新報. 2020;5012:62.
岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部長)[新型コロナウイルス感染症]