【集積地FAPと異なる臨床像。有効な新規治療の出現】
家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は,末梢神経障害を主徴とする代表的な遺伝性アミロイドーシスである。大部分の患者で遺伝的に変異したトランスサイレチン(TTR)が組織沈着アミロイドの前駆蛋白質となり,TTRの30番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met型が最も多い。FAPは全身臓器に多彩な症状を呈するが,代表的な臨床症候として下肢末梢優位の温痛覚低下,起立性低血圧や下痢,便秘,排尿障害などの自律神経障害,心伝導障害などが挙げられる。
従来,長野県や熊本県などの集積地のみに存在する稀な遺伝性疾患と考えられていたが,近年,高齢で発症し集積地と関連を認めないFAPが全国に存在することが明らかとなった。非集積地におけるFAPは集積地における若年発症のFAPと比べ,病初期に自律神経障害が目立たず,家族歴を有さないことも多いため1),糖尿病性ニューロパチーや腰部脊柱管狭窄症などと誤診される例も少なくない。
本疾患に対する治療法の開発は目覚ましく,肝移植療法とTTRの四量体安定化剤であるタファミジスの臨床応用に加え,低分子干渉RNA(siRNA)を用いた遺伝子サイレンシング療法(TTRの発現抑制)の良好な試験結果が得られつつあり,今後の治療法として期待される。ただし,タファミジスを例にとると年間約3000万円と非常に高額な薬剤であり,医療経済的な懸念も示されている。
【文献】
1) Koike H, et al:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012;83(2):152-8.
【解説】
神林隆道,園生雅弘* 帝京大学脳神経内科 *主任教授