腎実質性高血圧は,慢性糸球体腎炎,IgA腎症,微小変化型ネフローゼ症候群,一次性巣状分節性糸球体硬化症,特発性膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎,膠原病,腎硬化症,多発性囊胞腎など,3カ月以上続く慢性腎臓病が原因で腎組織および腎機能が障害され,その結果血圧が上昇したものをいう(「糖尿病性腎臓病」「腎血管性高血圧」については別項を参照されたい)。腎実質性疾患において,高血圧は透析導入のリスクであるだけでなく,脳心血管イベントのリスクであることを認識して管理すべきである。
蛋白尿定量(g/gCrまたはg/日),赤血球尿,血清クレアチニン,推算糸球体濾過量(eGFR),家庭血圧の測定を繰り返す。随時尿で同時に定量した尿中蛋白濃度を尿中クレアチニン濃度で割ることによりg/gCrが算出され,これが1日の蛋白尿のg数とほぼ等しいので,蓄尿の必要がない。0.15g/gCr以上ならば蛋白尿ありと判定する。蛋白尿は腎機能予後の独立したリスク因子であり,また,蛋白尿の有無により投与する降圧薬が異なるので,蛋白尿定量は重要である。赤血球尿は腎機能予後に影響しない。
慢性糸球体腎炎など,腎実質性高血圧患者の腎生検組織を顕微鏡でみると,すべての糸球体が一様に傷害されているのではない。傷害された糸球体の機能を補うために,近くの糸球体ではアンジオテンシンⅡや交感神経が輸出細動脈を収縮して,糸球体血管の内圧を高くすることにより水や老廃物を,より多く濾過しようとする。ところが,血管内圧が高くなりすぎると内皮細胞や足細胞(ポドサイト,上皮細胞),足突起と足突起の間にあるネフリンが傷害されて,蛋白尿が増加し腎機能障害も進展する。これに対して,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)で輸出細動脈を開いて内圧を下げると,蛋白尿を減少させることができ,腎機能障害の進展も遅らせることができる。ただし,ARBを開始すると糸球体血管の内圧が急に低下して,血清クレアチニンや血清カリウム(K)を上昇させることがあるので,注意が必要である。
腎臓には腎血流を一定に保つような自動調節能がある。腎灌流圧が低下すると,輸入細動脈が拡張して血流量を増やそうとする。一方,腎灌流圧が上昇すると,輸入細動脈は収縮して血流量を減らそうとするはずである。慢性糸球体腎炎などの腎実質性高血圧患者では,全身の高血圧に対して輸入細動脈が適正に閉じないので,高血圧が糸球体に伝達されて糸球体内圧がさらに上昇し,糸球体傷害が進展してしまう。すなわち,腎病変→高血圧→腎機能障害という悪循環が進んでしまう。したがって,全身血圧を低下させることにより糸球体血圧も低下させるCa拮抗薬も必要である。
生活習慣に関しては,食塩制限,適正体重の維持,禁煙,および腎機能に応じた蛋白質制限を行う。食塩制限は6g/日未満を推奨する1)。腎機能保護の意味からは3g/日未満への制限は勧められない。
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