重症筋無力症(MG)は,神経筋接合部の筋膜に存在する分子〔筋型ニコチン性アセチルコリン受容体(AChR,約85%),筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK,約3%)〕に対する自己抗体による自己免疫疾患である。自己抗体が産生される原因は不明であるが,抗AChR抗体陽性MGは,胸腺組織や胸腺腫が発症に関与すると考えられる。2018年の全国疫学調査によると,わが国における有病率は人口10万人当たり23.1人,男女比は1:1.17で女性に多く,発症年齢〔中央値(四分位範囲)〕は全体で58(41~69)歳であった。
日内変動のある眼症状や全身の筋力低下と易疲労性をきたし,抗AChR抗体もしくは抗MuSK抗体が陽性であればMGと診断する。これらの自己抗体が陰性であっても,低頻度反復刺激誘発筋電図,単線維筋電図で神経筋伝達障害があればMGと考える。エドロホニウム試験では眼球運動障害,低頻度反復刺激誘発筋電図などを指標にして評価する。画像検査(CTまたはMRI)による胸腺異常(胸腺腫,胸腺過形成)の検索は必須である。また,自己免疫性甲状腺疾患の合併頻度が10%近くに上るため,甲状腺機能と自己抗体の測定も必須である。
MG治療の基本は免疫療法であるが,18~65歳の全身型かつ抗AChR抗体陽性患者を対象にした臨床研究から,これらの患者は早期に胸腺摘除術を行うと,臨床症状の改善とステロイド総投与量を減量できることが判明した。胸腺摘除術は侵襲の少ない内視鏡手術を選択し,症例経験が豊富な施設に依頼して行うのがよい。
免疫療法の基本はステロイド経口投与で,呼吸筋麻痺や嚥下障害のある患者,筋力低下による日常生活の障害がある患者では,早期に血液浄化療法,大量免疫グロブリン静注療法(IVIg)を併用して症状の改善を図る。なお,ステロイド経口投与は隔日投与の漸増・漸減を用いているが,症状が改善すれば過剰量を投与する必要はない。眼筋型から軽症の全身型は,治療を外来で行うことができる。ステロイドを隔日投与するのは,経験的に副作用を軽減できるためである。症状の早期改善もしくはステロイド投与量を減らすため,カルシニューリン阻害薬(タクロリムス,シクロスポリン)を併用する。以上の方法で改善がみられない場合は,躊躇せず血液浄化療法,IVIgを併用する。耐糖能異常や胃潰瘍などステロイド経口投与継続に適さない場合にはステロイド投与量を少なくし,カルシニューリン阻害薬を併用しつつ,血液浄化療法やIVIgで症状の改善を図る。
ステロイド減量は,MG症状があっても日常生活に支障のない状態(minimal manifestation status:MMS)にあれば,進めても構わない。症状が増悪すれば,ステロイドを減量前の投与量に戻す。症状の日内変動が大きければ,コリンエステラーゼ阻害薬を,症状に合わせて投与する。ステロイド投与が短期間で終わらないことを考えて,骨粗鬆症を防ぐためにビスホスホネート製剤を投与する。
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