1 総論:今回の改訂における大きな変更は,直腸脱を疾患として新たに加えたことと,各疾患を総論とCQに分けて構成して一般医家と専門医の両者が利用しやすいことを目指したことである
2 痔核:総論では一般医家向けに疾患概念から診断・治療に至るまでの内容をまとめた。CQでは専門医向けに治療法の選択に有用な痔核の分類,結紮切除・ALTA療法・非切除術式のメリットとデメリット,嵌頓痔核への急性期治療を臨床重要課題として取り上げた
3 痔瘻:総論では一般医家向けに疾患概念から診断・治療についてまとめ,さらに特殊な痔瘻として乳児痔瘻とクローン病に伴う痔瘻にも言及した。CQでは専門医向けに低位筋間および深部痔瘻に対する術式選択,乳児痔瘻の治療方針,クローン病に伴う痔瘻の外科的治療と薬物療法を臨床重要課題として取り上げた
4 裂肛:総論では一般医家向けに疾患概念から診断・治療についてまとめた。CQ では専門医向けに内圧検査,薬物による括約筋弛緩,外科的治療を臨床重要課題として取り上げた
5 直腸脱:本ガイドラインに今回から新たに加わった疾患である。総論では一般医家向けに疾患概念から診断・治療についてまとめた。CQ では専門医向けに排便造影検査,バイオフィードバック療法,経会陰手術と経腹手術それぞれの適応と選択すべき術式を臨床重要課題として取り上げた
「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)診療ガイドライン2014年版」の初の改訂版として今回の第2版である「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版」が2020年1月に発刊された。
今回の改訂版では2014年版で取り上げた痔核・痔瘻・裂肛の3大肛門疾患に加え,直腸肛門疾患診療の臨床上で重要な疾患の一つである直腸脱が新たに追加された。また前回の2014年版でCQの大部分を占めていた定義,疫学,病因,臨床所見,診断ならびにほぼ確立されている治療は,疾患トピックの基本的特徴として総論にまとめなおし,各疾患のCQは3〜5つの臨床重要課題に絞り込んで文献をレビューした(表1)。
これによって一般医家が必要とする総論的なレビューから,専門医が実際の診断や治療に際して悩む臨床重要課題のレビューに至るまで効率よく利用できるように構成されている。
前回の2014年版では多くのCQは基本的知識の解説にあてられており,治療に関する臨床課題の解説が少なかった。今回の改訂版では前回のCQの大部分を占める痔核の基本的知識は総論としてまとめ,CQでは主に治療に関する臨床重要課題に絞り込んで重点的にレビューした。
◉実臨床での対応
専門医以外の医師は本ガイドラインの総論を利用して疾患の概念から,診断,治療法を知ることで,診断から初期治療まで十分に対応することができる。痔核は出血・脱出・疼痛などの症状と肛門鏡による肛門診察に慣れれば確実に診断することができる疾患であるが,出血を主訴とする場合は患者の年齢に応じて初期の段階で下部内視鏡検査を行うことが望ましい。痔核の患者の多くは保存的治療として食物繊維と水分を十分に摂取する生活指導や,坐薬や軟膏による薬物療法で改善する。保存的治療を2〜4週間継続しても症状の改善が得られない場合は専門医に紹介する。
手術適応を決めるための臨床分類(CQ1)は専門医の間でも大きな課題である。現時点で提唱されている臨床分類を国内外の文献で検証したが,本ガイドラインでは従来のGoligher分類以外の分類を提唱できる段階には至らなかった。痔核のALTA療法(CQ2)はgrade Ⅱ〜Ⅳの脱出性の内痔核には低侵襲かつ有用な治療であり,行うことを弱く推奨できるがエビデンスは弱い。結紮切除術(CQ3)は様々な形態の脱出性の痔核(gradeⅡ~Ⅳ)にも対応できる有用な治療法であり,エビデンスも強いため強く推奨できる治療法であるが,術後疼痛や後出血などのマイナス面も十分に理解し,患者の好みも考慮してその適応を決める必要がある。各種の痔核を切除しない術式(CQ4)については根治性では結紮切除術に劣るが,外来や短期入院で施行できるメリットがあるため弱く推奨した。嵌頓痔核の急性期手術(CQ5)は専門医でも治療方針に迷うが,今回は術後疼痛や合併症の点から行わないことを弱く推奨した。
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