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良性軟部腫瘍[私の治療]

No.5034 (2020年10月17日発行) P.47

森井健司 (杏林大学医学部整形外科学教授)

登録日: 2020-10-16

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  • 骨組織以外に発生する良性間葉系腫瘍を指す。多くは長期にわたって患者の体内に増大することなく存在しており,手術の対象とならない。日本整形外科学会骨軟部腫瘍登録では年間3万例前後が登録されているが,実際に手術や登録に至らない例も多数あると考えられる。病理組織学的に多種多様であるが,頻度の高いものを以下に挙げる。
    ①脂肪腫:脂肪組織からなる良性腫瘍。MRIで正常な脂肪と同様の所見を呈するが,巨大なものは高分化脂肪肉腫との鑑別を要する。
    ②神経鞘腫:末梢神経シュワン細胞由来の良性腫瘍。神経近傍に発生する。MRIでは比較的heterogeneousな所見を呈することが多い。放散痛や疼痛を伴う場合や,麻痺の進行がある場合は切除の対象となるが,重要な運動・感覚神経に発生した場合,切除後の神経障害発生や増悪に留意する。
    ③血管腫:多くの年齢のあらゆる部位に発生する。MRIで管腔の描出や出血(fluid level)をみることがある。疼痛を呈することがあり,切除を適応する根拠となる。
    ④腱滑膜巨細胞腫:腱鞘や関節滑膜に発生する。増大や局所浸潤傾向があり,指や足趾に発生した場合は早期の切除が望ましい。大関節例は切除でも根治が困難であり,除痛等切除目的を明らかにしておくとよい。
    ⑤グロムス腫瘍:強い疼痛の原因となる小さな軟部腫瘍で,爪周囲に好発する。寒冷時に疼痛が増悪する。疼痛を制御するため切除対象となることが多い。
    ⑥デスモイド:局所浸潤性や再発傾向が強い線維芽細胞増殖性の軟部腫瘍。COX-2阻害薬等による保存的制御が可能な症例もある。
    ⑦その他:日常遭遇することが多い腫瘍類似疾患として,関節近傍や腱に隣接して発生する囊腫性病変であるガングリオンや,皮膚に隣接して発生し皮膚由来の角質や皮脂を内容物とする粉瘤(アテローム)等がある。

    ▶診断のポイント

    悪性腫瘍との鑑別を常に念頭に置く。病理組織学的に確定診断するが,すべての症例に生検術を行うのは現実的ではなく,悪性軟部腫瘍との鑑別が必要な症例に適応する。

    【症状】

    無痛性腫瘤形成が主訴であることが多いが,血管腫・神経鞘腫・グロムス腫瘍・血管平滑筋腫等は疼痛を伴う。50mm以上の比較的大きな症例,短期間で増大する症例等は悪性腫瘍との鑑別が必要である。

    【画像所見】

    単純X線撮影とMRIが標準的画像評価法である。近年,超音波検査による評価も試みられつつある。単純X線像で,脂肪腫は皮下脂肪と同様の高い透過性を持つ腫瘤として描出される。脂肪腫・血管腫等においては石灰化像を呈することがある。脂肪腫・神経鞘腫・ガングリオン・血管腫・粉瘤などは頻度も高く,多くの症例においてMRIによる画像診断が可能である。これら以外の非典型的なMRI所見を呈する腫瘤は,生検の適応を検討する。

    【病理組織学的評価】

    直視下生検あるいは針生検を行う。比較的小さい症例は切除生検も許容される。いずれの手技においても,万が一悪性であると判明したときに広範切除を妨げない配慮を行う。確実に検体が採取できていることを確認するため,迅速病理診断の施行が望ましい。

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