感染性腸炎の原因としてはウイルスや細菌などがあり,多くは急性に下痢,腹痛,発熱などをきたすが,疾患によっては慢性の経過をたどることがある。
急性に腹痛,下痢や嘔吐,発熱を認めれば,本疾患を疑う。ウイルス性は冬に多く,8割以上に嘔気・嘔吐を伴い,腹痛を認めることも多い。細菌性は春~秋に多く,7割は嘔吐を認めない。
便の性状は,原因疾患を推定する上で重要である。水様性下痢は毒素型食中毒などでみられる。ノロウイルスやロタウイルスでは白色下痢を呈し,米の研ぎ汁様下痢はコレラに特徴的である。カンピロバクターや病原性大腸菌,サルモネラ,赤痢菌,エルシニアなどは血便をしばしば伴い,アメーバ性大腸炎ではイチゴゼリー状便が特徴的である。
食歴は重要で,食べ物の種類や食べてから症状が出るまでの時間や時期,一緒に食べた家族や同僚の症状などを問診する。汚染された弁当などの食物摂取後1~6時間の早期に発症する場合にはブドウ球菌やセレウス菌などのエンテロトキシンによる食中毒,生の魚介類を摂取後6〜12時間の場合には腸炎ビブリオ,生の鶏卵や鶏肉の摂取後12~24時間ではサルモネラ,生の鶏肉や牛肉,豚肉の摂取後1~5日では病原性大腸菌,2~11日ではカンピロバクターやエルシニアを疑う。
既往歴では,免疫不全状態となる疾患や,最近,感染症に対して抗菌薬の投与がされていないかを聴取する。免疫不全患者などでは,サイトメガロウイルス腸炎をきたすことがある。抗菌薬の投与歴がある場合にはClostridioides difficile(CD)感染症を考慮する。海外渡航歴がある場合には,直近であれば細菌性腸炎,特にコレラや細菌性赤痢,腸チフスなどの稀な疾患も念頭に置く。東南アジアなどに渡航歴がある場合には,直近ではなくともアメーバ性大腸炎も考慮する。
検査としては,便の培養・鏡検・CD toxin,疑いのある場合には血液検査(CMV抗原,LPS抗体),大腸内視鏡による内視鏡所見や生検病理組織所見,粘膜や便汁培養を施行する。
感染性腸炎は対症療法で軽快することが多いため,抗菌薬を投与することは多くはない。初期治療においては脱水の評価と補液の必要性を検討し,脱水があれば早期に補液を行う。細菌性の場合には抗菌薬の投与の判断が必要となる。患者背景,重症度,発症時期,食歴,渡航歴,既往歴,職業などを評価する。高齢者や免疫不全患者では重症化や遷延化することがあるため,注意が必要である。
原因菌などから抗菌薬投与の必要性を判断する。原因菌が判明するまでのempiric therapyを含めて積極的に抗菌薬の投与を考慮するのは,①血圧低下,悪寒戦慄などの敗血症が疑われる場合,②重度の下痢による脱水などで入院加療が必要な場合,③免疫不全患者で菌血症のリスクが高い場合,④乳幼児,高齢者,人工血管,人工弁,人工関節などの合併症のリスクが高い場合,⑤渡航者下痢症,である1)。
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