◉慢性便秘症の定義と分類,そして便秘型過敏性腸症候群を明確化して診療しましょう。
◉3つの治療目標のバランスの重要性を認識しましょう。
◉ブリストル便形状スケールを活用しましょう。
◉便秘治療薬の使い分けを意識し,刺激性下剤の連用を減らしましょう。
◉便秘エコーに興味を持ち,少し取り組んでみましょう。
6年ぶりに改訂された『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』1)が2023年7月に発行されましたが,お読みになりましたでしょうか? 改訂ポイントとして,私見ではありますが,以下に列挙したいと思います。
❶便秘と慢性便秘症の定義の改訂(状態名を便秘,病態を便秘症とした)
❷定義,分類,診断,治療のすべてで,便の運搬に障害のある排便回数減少型と,直腸に貯留した便が排泄できない排便困難型の2つの病態が主要な分類とされた
❸慢性便秘症の病態評価において直腸エコー(便秘エコー)が記載された
❹オピオイド誘発性便秘症のアルゴリズムが記載された
❺慢性便秘症の診療フローチャートが初めて作成された
❻機能性便秘症と便秘型過敏性腸症候群が行きつ戻りつするモデルが明記された
❷と❻のポイントから,慢性便秘症が疑われる患者さんの初診時には,排便回数減少型および排便困難型を念頭に置いた聞き取りだけでなく,便秘型過敏性腸症候群の可能性がどの程度あるのかを把握するため,表1のような聞き取りを行い,本人と介護者から聴取することが大事ということになります。
次に,慢性便秘症の治療目的(目標)の再確認,および,その解釈の私見を述べたいと思います。診療ガイドラインによると,「慢性便秘症の治療目的(目標)は,①完全自発排便の状態へ導き,②その状態を維持することと③QOLの改善にある」(数字は筆者が追記)と記載されています1)。
慢性便秘症の難しい点のひとつは,①をより良くしようとしても,必ずしも②,③がより良くなるとも限らないところです。
たとえば,旧版から刺激性下剤であるセンナは屯用または短期間使用が推奨されていますが,米国では市販薬として,1~2カ月程度の使用としての推奨度は最高のAとなっており2),日本の報告で,センナ長期使用からルビプロストンに変更した1カ月後にはQOLが低下することが示されています3)。つまりは,刺激性下剤はルビプロストンに比べて③の観点からは優秀な可能性があります。
一方で,刺激性下剤を週3回,1年間使用した慢性便秘患者さんの約半数で結腸が拡張し,便塊の移動障害をきたしうる状態となることが判明している4)ため,刺激性下剤の長期連用は,②の観点から治療目的(目標)を達成しにくいと考えられます。
この3つのバランスを取り,トータルで考える必要があることを,慢性便秘症の治療の目的(目標)から深読みすることができるのではと考えています(図1)。
刺激性下剤長期連用の影響については,刺激性下剤の紹介の際にもう一度触れます。
次に,目の前の慢性便秘症患者さんの治療の適切さを評価する方法を2つ紹介したいと思います。1つは,ブリストル便形状スケール(図2,Bristol Stool Form Scale:BSFS)で,もう1つは便秘重症度スコア(表2,Constipation Scoring System:CSS)です。
BSFSは,1997年にブリストル王立診療所で開発され発表されました。重要なことなので詳しく記載しますが,「慢性便秘患者ではBSFS値が小さいほど大腸通過時間が長くなる傾向にあり,3未満で大腸通過遅延を感度82%,特異度83%で推定できる。一方で,排便回数と大腸通過時間とは関連がない」ことが明らかとなっています5)。
BSFS値と症状との関連については,たとえばBSFS 3の患者さんは,便秘治療に満足していないという日本からの報告6),BSFS 4では良好な便秘関連QOLスコアと強く関連しており,BSFS 6と7では処方を考え直す必要性がある7),などです。つまり,もちろん排便回数の聴取はしますが,慢性便秘症治療の目標を達成するには,「BSFSを聴取し4(時に5)になっていることにこだわること」が非常に大事ということです。便回数だけを聴取していると,たとえば,BSFS 1の便が毎日出ていてQOLが障害されている状態を容易に見逃してしまうわけです。ただ,多忙な医師が,便の形状を高齢患者さんから聞き出すのは難しい場合があるかもしれません。また,聞いてはいても,患者申告のBSFSの正確性は低いという報告もあるため,「便はバナナみたいな感じですか?」「はい,そうです」というやりとりで,本当にBSFSが4であるのかは実は確証が得られません8)。
高齢患者さんが自分で使えるかという課題はありますが,BSFSをAI判定してくれるスマホアプリが利用可能になってきています9)。まずは誰かに便の写真を撮ってきてもらうのを習慣化するのがよいかもしれません。
もう1つがCSSです(表2)。1週間あたりの排便回数,残便感,腹痛の頻度,排便に要する時間などの計8項目を0~4段階,計30点で評価する主観スコアです10)。事前に登録してもらえば,スコアを見ながら,限られた外来の時間を薬剤調整や生活指導のために有効活用できます。