薬剤性難聴は,主に全身投与された薬剤により内耳障害が起こり,感音性難聴をきたす疾患である。障害が前庭に及ぶと平衡障害を合併する。アミノグリコシド系抗菌薬,白金製剤による障害の多くは非可逆性であり,マクロライド系抗菌薬,ループ利尿薬やサリチル酸による障害は一過性である。消毒薬(ポビドンヨード液)やフラジオマイシン(ネオマイシン)を含む点耳薬の局所投与による障害も知られている。
薬剤性難聴は一般に薬剤の投与期間,投与量に依存して発症の危険性が高まるが,アミノグリコシド系抗菌薬では感受性に個人差がある。難聴は両側感音難聴の場合が多い。難聴は可逆的な場合と非可逆的な場合があり,薬剤によりほぼ決まっている。難聴とともに耳鳴を訴える場合が多く,ストレプトマイシンでは平衡障害も発症することがある。
ストレプトマイシン,カナマイシン,ゲンタマイシンなどにより引き起こされる。ミトコンドリア遺伝子1555A→G変異を持つ患者ではアミノグリコシド系抗菌薬に対する感受性が高く,家族歴を有し少量投与でも難聴をきたす。両側性,高音漸傾型で非可逆性の難聴を示す。初期には4000~8000Hzのみが障害され,自覚症状を伴わないことが多い。薬剤投与中止後も難聴が進行する例もある。ストレプトマイシンでは前庭障害を合併し,ふらつきを訴える場合も多い。
シスプラチンやカルボプラチンにより引き起こされる。重篤で高度難聴や耳鳴を残す例もある。カルボプラチンのほうがやや内耳毒性は弱い。両側性で,高音障害から始まり非可逆性である。
エタクリン酸,フロセミドによって引き起こされる。腎尿細管のNa-Kポンプの阻害が利尿作用の薬理であるが,同様のポンプが内耳血管条に存在し,その障害により難聴を生じる。水平型または高音漸傾型の両側感音難聴を生じる。大量投与で発症しやすく,数時間以内の一過性難聴である場合が多い。
軽度~中等度の水平型または高音漸傾型の両側感音難聴が多く,投与中止により軽快することが多い。長期的に使用している場合は,非可逆的な難聴を引き起こすこともあるので,注意が必要である。
エリスロマイシン,クラリスロマイシン,アジスロマイシンで引き起こされる。両側性,中等度の難聴で,多くの場合可逆性であり,投薬中止で回復することが多い。
0.1%ベタメタゾン液に0.35%フラジオマイシン液を混合した製剤が点耳薬として使用されていたことがあり,鼓膜穿孔のある患者に使用して高度難聴をきたしたとの報告がある。また,ポビドンヨード液による難聴の報告もあり,中耳炎の術野の消毒液として用いる場合は耳毒性に注意する。
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