スポロトリコーシス(sporotrichosis)は,土壌,腐木など環境に分布するSporothrix属の真菌が小外傷などを通じて皮膚に侵入して生じる慢性の肉芽腫性疾患であり,深在性皮膚真菌症の中では最も高頻度にみられる。小外傷を受けやすい部位,成人では手や腕に好発する。
小外傷が治癒せず無痛性の結節,潰瘍を生じてくる。皮疹が飛び石状の分布を示し,中枢側に向かう際には本疾患を強く疑う。菌の侵入した部位に皮疹が生じ,そこにとどまった固定型,飛び石状の分布を示すリンパ管型のほか,皮疹が多発する播種型などが知られている。
痂皮,膿,生検組織片の真菌培養を行い,Sporothrix属真菌を分離する。Sporothrix属真菌は培養しやすく,検体をサブロー培地(抗生物質や抗菌薬が添加されていても可)に接種して27℃で保温すると2週間ほどでコロニーが得られる。属レベルの同定はコロニーの形状と菌の顕微鏡形態で比較的容易である。種レベルの同定にはカルモジュリン遺伝子の塩基配列情報が用いられる。最近,S. schenckiiとされていたわが国での分離菌のほとんどが,分子生物学的にはS. globosaで,これにごく少数のS. schenckii(狭義)が混じることが明らかになった1)。病理組織では表皮は不規則に肥厚し,真皮にはLanghans型巨細胞を含む肉芽腫と微小な膿瘍が観察される。巨細胞や膿瘍中にPAS染色陽性の胞子状菌要素が検出される。通常は菌量は少ないが,ステロイド外用薬の誤用例では多量の菌が観察されることがある。HE染色で好酸性に染色される星芒状体が認められることがある。
Sporothrix属真菌から抽出した抗原による皮内反応(スポロトリキン反応,48時間で判定)が迅速診断に用いられる。ただし,治癒後も陽性は続き,免疫不全状態では偽陰性になる。
北関東,九州北部に患者が集積する。秋冬の寒冷な時期に発症することが多い。これはSporothrix属真菌に熱感受性があり,夏の高温環境は菌の生存,発育に不適なためと考えられる。好発部位は外傷を受けやすい露出部で,成人では手から腕,小児では顔面である。ライフスタイルが変わり,また罹患しやすい小児の人口が減少したためか,近年報告例は減少傾向にある。特に小児例は著しく減少している。
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