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多剤耐性アシネトバクター(MDRA)感染症[私の治療]

No.5042 (2020年12月12日発行) P.49

髙田 徹 (福岡大学病院感染制御部教授)

登録日: 2020-12-13

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  • 剤耐性アシネトバクター(MDRA)はカルバペネム系,アミノグリコシド系,フルオロキノロン系など3系統の抗菌薬に耐性を示すAcinetobacter baumanniiと定義され,感染例は5類感染症の全数届出対象である。通常,健常者には病原性を示さず,高齢,重篤な基礎疾患,人工呼吸管理,重度外傷,熱傷,褥瘡,留置カテーテル,経管栄養,血液透析などが感染のリスク因子となる。

    広域抗菌薬の長期使用,人工呼吸管理,デバイス留置患者や免疫抑制状態の患者において,肺炎,カテーテル感染症など医療関連感染症の原因となる。菌血症は人工呼吸器関連肺炎と血管内留置カテーテルからの感染に関連することが多い。有効な抗菌薬はコリスチン等,数種類に限られ,コリスチンを含む既存の抗菌薬すべてに耐性を示す株も報告されている1)

    ▶診断のポイント

    菌の定着がその後の感染症発症のリスクとなるが,両者の判別はしばしば困難である。抗菌薬治療前や治療薬の変更時には必ず感受性試験による確認を行う。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    有効な抗菌薬治療の前向き臨床試験に基づく確固たる臨床的エビデンスは乏しい。選択肢は,コリスチンなど耐性菌用の特殊な抗菌薬など,感受性を示す抗菌薬に限られる。抗菌薬により感染部位への薬剤の移行や血中濃度の上昇が乏しいものがあり,感染部位も勘案して抗菌薬を選択する。

    感染源のコントロールが重要で,血管内留置カテーテルなど医療器材が感染原因となっている場合には,原則として抜去が必要となる。

    初期治療に感受性のある抗菌薬を投与することが重要であり,重症時や分離株の抗菌薬に対するMIC値が高値を示す場合には併用治療も考慮される。感受性判明前は,施設の分離菌の薬剤感受性を参考に感性率の高い抗菌薬を選択する。

    ・オルドレブ®(コリスチン)の静注は肺炎,菌血症,髄膜炎に対して有効性が示されている。しかし,腎毒性と神経毒性を有し,血中濃度の個人差も大きい。肺や髄膜へは薬剤の移行が十分でないため,肺炎や髄膜炎では各々吸入療法や髄腔内投与との併用投与も考慮される(保険適用外)。

    ・βラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタムも抗菌活性を示す。わが国ではアンピシリンやセフォペラゾンの合剤として利用可能であるが,スルバクタムとして4~6g/日以上の高用量が必要となる。

    ・チゲサイクリンは組織移行性がよく,腹腔内や皮膚軟部組織感染症に有用である。反面,血中濃度が上がりにくく,菌血症を伴う例には用いるべきでない。また,カルバペネム前投与例では,低感受性を示す傾向が報告されており2),注意が必要である。

    ・ミノサイクリンは,感性株で肺炎や皮膚軟部組織感染症への有効性が症例レベルで報告されている。髄膜炎例や菌血症例には用いるべきでない。
    ・リファンピシンは必ず併用薬として用い,単独で用いるべきでない。
    ・治療期間は,肺炎では院内肺炎に準じ7~14日間,血流感染症,皮膚軟部組織感染症,尿路感染症では10~14日間,髄膜炎では21日間を目安とする。

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