【神経免疫疾患治療に現れたモノクローナル抗体は一粒で何度?】
重症筋無力症(MG)の治療は,1960年代のステロイド大量療法の導入以来,予後が大幅に改善し,免疫抑制薬,血漿交換,免疫グロブリン大量静注療法でさらにQOLも向上した。しかし,これらのコンビネーションでも人工呼吸器の状態から脱却できない症例,クリーゼを頻回に起こす症例は一定数存在する。
モノクローナル抗体であるエクリズマブ(ソリリス®)は発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)や非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に使用されてきた薬剤である。全身型MGでも補体C5に高親和性に結合し終末補体であるC5aおよびC5b-9の生成を阻害することで,運動終板の膜破壊を抑制し,臨床症状を改善すると考えられる。第3相REGAIN試験,その後の追跡調査でも難治性全身性MGへの有効性と安全性が確認された1)。わが国では2017年12月,全身型MG(免疫グロブリン大量静注療法または血液浄化療法による症状の管理が困難な場合に限る)に適応が拡大された。ただし,莢膜形成菌に対する免疫力が低下するため,髄膜炎菌ワクチン接種が推奨される。
このほかエクリズマブは,視神経脊髄炎(NMO)でも再発率の低下の効能が認められ,さらに,わが国発のエクリズマブによるギラン・バレー症候群の第2相治験が千葉大学主導で完遂され2),次の第3相治験が大いに期待されており,まさに神経治療領域を席巻している薬剤である。
【文献】
1) Howard JF Jr, et al:Lancet Neurol. 2017;16 (12):976-86.
2) Misawa S, et al:Lancet Neurol. 2018;17 (6):519-29.
【解説】
畑中裕己 帝京大学脳神経内科准教授