新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い、医療機関は患者が安心して診療を受けられる環境整備への取り組みが求められいる。連載第25回は、都内の複合ビルの中にあるとは思えないほどのゆったりとした空間で、感染対策を徹底しつつ、患者がくつろぎながら質の高い内視鏡検査や診察を受けられる院内空間づくりを実践しているクリニックの事例を紹介する。
JR大森駅から徒歩2分の複合ビル6階にある「大田大森胃腸肛門内視鏡クリニック」は2020年10月に開院した。
青森県立中央病院や国立がん研究センターなどで、大腸がんを中心に消化器がんの内視鏡検査から外科手術、化学療法、放射線治療、緩和治療に携わってきた院長の大柄貴寛さんは、多くの消化器がん患者と接する中で早期発見・早期治療の重要性を実感。質の高い内視鏡検査が気軽に受けられるような地域のかかりつけクリニックを目指している。
同院は、患者が内視鏡検査に抱く「痛い」「苦しい」というイメージを軽減すべく、大腸内視鏡検査で身体への負担が大きいスコープの挿入は無送気軸保持短縮法で行い、鎮静剤も使用。検査機器は2020年夏に発売されたばかりの画期的な画像強調観察技術を搭載した内視鏡システムを導入するなど、苦痛が少なく、かつ精度の高い検査を実践している。
同院のもう1つの特徴は、質の高い内視鏡検査を「安心して受けてほしい」という大柄さんの思いで設計された院内空間。床面積は279.50m²あり、待合スペースがゆったり確保されている(写真①)。クリニックでゆっくりと下剤を飲めるよう半個室を9室用意(写真②)。電源やUSBコンセントを設置しており、動画の視聴やパソコンの作業ができる。トイレは5室でリカバリー室(写真③)も広く、検査後ストレッチャーのまま移動して休むことができる。
「横に長い空間の中で、半円の受付を中心に外来と検査ゾーンを左右に完全にセパレートすることで、内視鏡検査にスムーズに案内できるレイアウトにしました。都内のクリニックとしては珍しくゆったりとした気持ちで内視鏡検査が受けられる診療環境を整えることができたと感じています」(大柄さん)
同院の設計・施工を手掛けたのは医療機関に特化した設計事務所のラカリテ(http://www.laqualite.jp)。同社は全国で500件以上の設計実績がある。医師のニーズをしっかりと汲み取った上で、将来の患者からのニーズも見据えたデザイン性と機能性、居心地を兼ね備えた「口コミで人に伝えたくなる医療機関」を実現する提案力に定評がある。
同院の設計のポイントについてラカリテの担当者はこう語る。
「先生が大事にしている内視鏡検査の動線と患者ファーストを優先的に設計に落とし込むことを心がけました。クリニックの基盤となる検査部門のスペースを極力大きく確保し、かつ患者さんが安心して受診できるように設計しました。色調は落ち着いたモノトーンにまとめ、複合ビルの中とは思えない静謐な雰囲気の中で内視鏡検査を受けてもらえると感じています。また近い将来の拡張を視野に入れ、待合の一部を更衣室に変更できるようなレイアウトになっています」
開院準備を始めた段階ですでにCOVID-19が拡大していたことから、同院は感染症対策に細心の注意を払っている。エントランスには非接触型の検温装置を設置。AIによる顔認識でマスクを着用しままでも瞬時に検温が可能だ。
天井には「CARE222」という最新の殺菌用光源を設置し、空間内の様々なウイルスや菌を除菌している。このほか診察室をはじめ院内の各所に高機能のオゾン空気清浄機を置くなど、院内感染を防止するためにさまざまな対策を取っている。
同院が提供する苦痛の少ない内視鏡検査と感染防止対策をホームページで周知した効果もあり、開業初月から月に200件以上の内視鏡検査を実施するなど集患は極めて順調だという。
「COVID-19の影響で健診を控えるなど必要な検査を受けられていない方が一定数いたこともあり、開業当初から近隣だけでなく広い地域から患者さんが来院してくれています。内視鏡検査は消化器がんの早期発見・治療に大きな役割を果たします。清潔でくつろぐことができ、安心して質の高い検査を受けてもらえる環境を今後も整えていきたいと思います」(大柄さん)