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ツツガムシ病類似の疾患について

No.5048 (2021年01月23日発行) P.52

馬原文彦 (馬原医院院長/馬原アカリ医学研究所理事長)

登録日: 2021-01-20

最終更新日: 2021-01-19

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61歳,男性(165cm,73kg),38℃台の発熱を主訴に来院。経過中に躯幹上肢などに小さな発疹が出現しました。ツツガムシ病に類似している症状でしたが,ツツガムシ抗体価は陰性だった症例について質問させて頂きます。
主訴:発熱,頭痛,全身倦怠感
既往歴:1990年胆囊結石で胆摘,脂肪肝(焼酎2合/日),花粉症
経過:2019年6月21日から発熱(38.5℃),悪寒,頭痛があり22日に当院を受診。血液検査所見は,WBC 3100/μL,Hb 14.2g/dL,Plt 14.3×104/μL,CRP 2.2mg/dL。アセトアミノフェン(カロナール®錠)200×2錠の内服などで経過をみていましたが全身倦怠感,頭痛は軽減しませんでした。
26日,27日の受診時,躯幹上肢に小さい発疹を見つけたため,ツツガムシ病を疑い,ミノサイクリンを静注。同錠剤を処方しました。なお,ツツガムシによる刺し口はなく,リンパ節腫脹はありませんでした。27日はWBC 3400/μL,CRP 1.95 mg/dLでした。

30日の受診時に,29日夜より両膝関節痛があり,毎日午後になると38℃台の発熱があるとのことでした。尿の色が赤いという訴えがあったため尿検査を実施したところ,色調は茶褐色,糖(±),蛋白(4+),ウロビリノーゲン(4+),潜血(3+)でした。同日,発熱精査のために入院しました。
発熱の原因として尿潜血(3+)から尿路感染症,ツツガムシ病もまったく否定はできないことから,アンピシリン・スルバクタム(ユナシン®-S)3.0g×3回,ミノサイクリン 100mg×2回,デキサメタゾン(デキサート®)6.6mgの静注を開始,翌日から解熱しました。ユナシン®-S,ミノサイクリン,デキサート®は3日間使用し,その後は中止。7月5日に退院しました。

鑑別診断として,感染症,膠原病,悪性疾患などが挙げられますが,38℃台の発熱,悪寒などから感染症を考え,抗菌薬を投与しました。
一般的には感染症の場合,白血球増多が多いですが,このケースでは4500/μL(6月30日),2800/μL(7月1日)と減少傾向にありました。一方で,血小板が201
年12月には21.9×10
4/μLでしたが,19年6月30日には9.4×104/μLまで減少していたため,感染症を考えました。PCTは上昇しています。

(1)発熱,悪寒,皮疹などからツツガムシ病を考えましたが,ツツガムシの抗体価の上昇は認められず,ツツガムシ病は否定されました。ほかに類似の疾患があればご教示下さい。
(2)ウロペーパーのテスト(6月30日)で尿潜血(3+),尿蛋白(4+),尿ウロビリノーゲン(4+)から尿路感染症を考えましたが,翌7月1日の尿検査では尿所見はほとんど正常でした。細胞診での悪性細胞などは認められず,尿中細菌培養や静脈血培養でも細菌は検出されませんでした。この症例でウロペーパーテストの尿潜血(3+)や尿ウロビリノーゲン(4+)をどのように考えたらよいでしょうか。ご教示下さい。(宮城県 F)


【回答】

【Shimokoshi株の抗体測定を勧める】

(1)鑑別診断

ツツガムシ病抗体価陰性と書かれていますが,商業ベースの検査センターのツツガムシ血清診断では,Gilliam,Karp,Katoの3株を抗原とした血清診断しか行っていません。一般的にこれら3血清型を標準3株としています。しかし,ツツガムシ病はこの標準3株以外の血清型,Irie/Kawasaki,Hirano/Kuroki,Shimokoshiの計6血清型が知られています。後述の3血清型は標準3株と反応性に差はあるが交差反応があるとされてきました。しかし,近年,ツツガムシ病陰性とされた中にShimokoshi型陽性の症例が報告され1),古くて新しい病として注目されています。Shimokoshi型感染例の臨床症状,経過も他の型による感染例とほとんど同じで,従来のツツガムシ標準3株抗体価陰性の場合本症を疑う必要が出てきました。

本症例では,臨床経過からミノサイクリン投与後速やかに解熱していること(ツツガムシ病ではミノサイクリン投与後1~2日で解熱することが多い),白血球減少傾向,血小板減少等の検査成績もツツガムシ病の所見で矛盾はありません。Shimokoshi株の抗体測定をお勧めします。

鑑別診断としては,まず,高熱,発疹などから同じリケッチア症である日本紅斑熱が第一に挙げられます2)。日本紅斑熱は発疹,高熱,刺し口を3徴候とし,発疹の性状,分布等詳細にみると若干相違はありますが,両疾患の経験値の少ない医師が臨床症状だけで鑑別するのは困難です。日本紅斑熱は一般的にツツガムシ病よりは重症感があります。1日の最高体温も70%以上で39℃以上あり,ミノサイクリン投与後も解熱まで数日を要します。確定診断は日本紅斑熱抗体価の上昇を証明します。

この症例で示されているように,重症敗血症や尿路感染症との鑑別も重要です。そのほか,発疹性熱性疾患として,麻疹や風疹などのウイルス性熱性疾患,また梅毒,新興回帰熱などのスピロヘータ感染症,レプトスピラ,バベシア症などの原虫性疾患,稀ではありますが発疹熱,ヒト顆粒球アナプラズマ感染症も報告されています。

(2)尿検査結果について

1998年に診断されたツツガムシ病416例の集計結果によると3),尿蛋白60%,尿潜血40.5%と報告されています。また,記載数は少ないものの90%以上にCRPおよびLDHの上昇,約80%にGOT,GPTの上昇を認めています。リケッチア症では抹消血管炎を起こすとされており,皮疹や腎障害などもこの結果と考えられます。著者は日本紅斑熱で血尿,無尿をきたした症例を経験しています。

【文献】

1) 佐藤寛子, 他:衛動物. 2014;65(4):183-8.

2) 馬原文彦:日内会誌. 2017;106(11):2341-8.

3) 小川基彦, 他:感染症誌. 2001;75(5):359-64.

【回答者】

馬原文彦 馬原医院院長/馬原アカリ医学研究所理事長

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