【検査で問題がなければ圧迫療法を行う】
下肢の浮腫がある場合,診断が重要となります(表1)。腎不全,肝不全,心不全,胸腹部腫瘍,深部静脈血栓症,下肢静脈瘤,リンパ浮腫などを考える必要があり,具体的には①血液検査(血算,Alb,腎機能,肝機能など),②心電図,③胸部X線,④胸腹部CT,⑤下肢静脈エコーを行います。これらに異常があれば,まずその疾患の治療を行います。
上記の検査に異常がなければ,リンパ浮腫,老人性浮腫,廃用性浮腫,肥満性浮腫などが考えられ,⑥足関節上腕血圧比(ankle brachial index:ABI)検査を行って問題なければ圧迫療法を実施します。高齢者の場合,tg®ソフト,tg®グリップのような弱圧のストッキングや,エアボ・ウェーブのような波形ストッキングが着用しやすいです。高齢で,自分で着圧ストッキングを着用することができない場合は,家族,ヘルパーや訪問看護師に着用させてもらうこともあります。着圧ストッキングがしわになったまま着用していると,傷になることがありますので,1日に何回か確認をしてしわをのばしていくことが重要です。
「リンパ浮腫療法士」という資格をもったセラピスト(看護師,理学療法士,作業療法士,あんまマッサージ師など)が全国におり,「リンパ浮腫治療学会」のホームページ等から医療機関を検索することができます。上記①~⑥に異常がなければ,リンパ浮腫療法士へ依頼をして圧迫用品を選んでもらったり,着用指導をしてもらったりすることができます。
リンパ管静脈吻合術(lymphaticovenular anastomosis:LVA)は,(医療機関にもよりますが)局所麻酔2時間程度で行うことができ,手術操作も脂肪組織までの浅さですので,高齢の患者でも行うことができます。膀胱癌,婦人科癌などの治療でリンパ節郭清や放射線治療が行われると,下肢からリンパ液が排出できなくなり,下肢のリンパ管,脂肪組織にリンパ液が貯留します。LVAは,静脈を通してリンパ液を排出できるようにするバイパス手術です。最近ではタキサン系抗癌剤の使用が増加しており,それによるリンパ浮腫も増えています。手術適応を決める際には,2018年に保険適用になったリンパシンチグラフィやインドシアニングリーン(indocyanine green:ICG)蛍光リンパ管造影などを行い,リンパ管機能を評価します。リンパ管機能が残存していれば,LVAで浮腫の改善が見込まれます。
90歳代という高齢を考えると,リンパ浮腫に,加齢性浮腫,廃用性浮腫なども重なっている可能性があり,圧迫療法を行った上で,介護保険のリハビリテーションやデイケアを利用し,座りっぱなしの状態にならないように下肢を定期的に動かすことも有用です。浮腫の部位に発赤がある場合は,濡れタオルや氷囊をタオルで包んだもので冷やすと,発赤と浮腫が軽減します。
【回答者】
原 尚子 JR東京総合病院リンパ外科・再建外科
三原 誠 JR東京総合病院リンパ外科・再建外科