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【識者の眼】「法と強制」岡本悦司

No.5051 (2021年02月13日発行) P.60

岡本悦司 (福知山公立大学地域経営学部長)

登録日: 2021-02-02

最終更新日: 2021-02-02

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「PANDEMIC パンデミック」という2016年の米国映画が話題を呼んでいる。コロナ禍を「予言」したような内容で、筆者は大学での医学英語の教材として活用している。この映画の面白いところは単なる医学映画にとどまらない点だ。感染症対策は医師だけでできるものではない。検疫、隔離そして交通遮断…いずれも「公権力の行使」であり、それには法律、権限そして管轄(縄張り)と六法全書との「戦い」が必要となる。

主人公である米疾病対策センター(CDC)の女医が、対策を巡ってカリフォルニア州知事やロサンゼルス市長と丁々発止やりあう光景は、感染症対策の「非」医学的側面が描写されていて面白い。CDCは連邦政府の機関だが、空港は市営である。機内で患者が発生したため女医が空港内に隔離センターを設置しようとすると市長からクレームが入る。「連邦法により私にはそうする権限が付与されている」と女医が反論しても、「まず市長の許可を得なければお前には何の権限もない」と一喝される。感染が拡大し、市長はついにロサンゼルス全体の封鎖(ロックダウン)に踏み切るが、当然ながら、封鎖を突破して脱出を試みる者が続出する。警備する州兵は州知事の管轄であり、知事はついに発砲を許可する(そして実際に射殺される者が出る)。

目下審議中の感染症法改正案では、入院に応じなかった感染者、積極的疫学調査への協力を拒んだ者に刑事罰を科すと当初案では規定していたが、「前科がつく刑事罰は重過ぎる」と言う野党におされて過料と呼ばれる行政罰にトーンダウンした。だがこれで法的実効性は十分であろうか? 映画では、市長が発砲という最後の手段をとることに反対するが、往年の大女優フェイ・ダナウェイ演じる州知事は戒厳令布告という決断を下す。布告を読み上げる知事のセリフは法と強制、ひいては感染症対策と罰則について示唆を与えてくれるだろう。

There is no justice without security. The law is not effective if it is only words.[治安なくして正義はない。法は単なる言葉にすぎなければ効果を持たない。]

岡本悦司(福知山公立大学地域経営学部長)[新型コロナウイルス感染症]

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