【透析症例ということを考えれば結核以外にも尿毒症性胸膜炎の可能性を検討してよいのでは】
診断のためには胸膜生検も検討が必要と考えます。
最初に症例をまとめると,「糖尿病・慢性腎不全(血液透析)・カテーテルアブレーション後・長年にわたる腰痛と下肢痛を基礎疾患に持つ70歳代男性の約半年続く右胸水貯留」になると思います。感染症科医の役割は,過去をさかのぼっての詳細なカルテレビュー(検査結果や画像などを含む),そして本人の診察を行い,最適解を導き出すことです。今回は実際の診察ができませんのでご質問から得られた情報のみをもとに述べていきます。まず議論をシンプルにするために記載しておきますと,MRIは化膿性椎体炎の診断において早期発見においても感度はCTより高い1)です。フォローのMRIでも椎体炎らしい所見がないのであれば椎体炎は考えにくいかと思います。
滲出性胸水の原因としては,ご指摘の肺炎随伴性胸水・膿胸,結核をはじめ,悪性腫瘍,胸膜中皮腫,肺塞栓,心筋梗塞後,膠原病関連,膵炎,薬剤性,冠動脈バイパス術後,乳び胸,食道穿孔,アスベスト関連,肺吸虫,卵巣過剰刺激症候群,黄色爪症候群,関節リウマチ,自己免疫疾患,横隔膜下・肝・脾膿瘍,尿毒症,放射線治療などがあります2)3)。今回は透析症例ということを考えれば,結核以外にも尿毒症性胸膜炎4)の可能性は検討してよいのではないでしょうか。その臨床的特徴,胸腔鏡所見,病理所見の詳細については文献4)に譲ります。長期透析を受けている入院症例での胸水を検討した研究5)を見ると,滲出性胸水症例の中で結核とともに尿毒症性胸膜炎の診断を見ることができます。また逆に原因不明のままのものもあります。
今回のように細胞診や培養検査でまったく診断の糸口がつかめない場合は,胸膜生検の適応3)です。呼吸器外科に一度紹介し胸水ドレナージしたとのことですが,もし生検していないのであれば再度の紹介をご検討頂ければと思います。難治性胸水の治療法についてもご質問頂いていますが,慢性経過ですし,まずは診断のほうに注力されるのがよいと思います。
【文献】
1) Zimmerli W:N Engl J Med. 2010;362(11):1022-9.
2) Froudarakis ME:Respiration. 2008;75(1):4-13.
3) McGrath EE, et al:Am J Crit Care. 2011;20(2): 119-27.
4) 梅澤佳乃子, 他:気管支学. 2019;41(3):233-8.
5) Bakirci T, et al:Transplant Proc. 2007;39(4): 889-91.
【回答者】
八板謙一郎 千鳥橋病院感染症内科部長